第16話蛮行

 パラシュートを付けて高空から地上へ落下するスポーツをスカイダイビングと呼ぶ。

 パラシュートを付けずに高空から地上へ落下する蛮行を自殺と呼ぶ。


「それで、これは今どういう状況なんですか?」

「ワープ失敗ですかねぇ。

 さっきの円盤は二つ一組で使うものなんですけど、多分ワープ先に設置してあったものが壊れたんでしょうねぇ。使うの二百年振りくらいですからねぇ。んふふ。

 ですがご安心を。

 下をご覧ください。運よく目的地の真上ですからこのまま行けば無事に到着ですよ」

「おい!ここ空だよなぁ!?

 なんでてめぇらはそんな落ち着いてんだよぉ!」

「ラポ、既に俺らになんとかできる範囲を超えてます。それならもういっそ全部ぶん投げて高みの見物を決め込むのが正解。ククク。」

「落ち着いてないみたいだな…。

 つかおい!エルシーさんよぉ、このまま行けば俺らは無事肉団子!どうするよ!?」


 ラポだけでなくトロイもいつの間にかエルシーに掴まれ、現在三人は横並びでの高速降下を経験している。

 トロイの目は眼下に広がる絶景を無感動に映し、ラポは涎と鼻水を撒き散らしながら喚き立てた。

 鎧


「うん?ああ。

 人間って肉団子から復活するの大変ですからねぇ」

「普通の人間は肉団子から復活できねぇの!なんとかしてくれよぉ!」

「なんとかなるなら最初からしてますとも。

 ああ、暴れないで。下まで行けば助かりますよ」

「本当か?信じていいんだな?」

「ええ、ええ。このまま落ちていけば目も耳もいい彼女が迎撃に出てくるはずですから」

「迎撃…」

「スイという女性です。二人のことを回収してくれるとは思いますが、彼女には注意してくださいね。私の仲間とか言わないように。

 さぁさ、そろそろ来ますからねぇ。お話は終わり。

 合流してからチュートリアル開始といきましょう」


 一方的にそう告げたエルシーを、辛うじて視認できる速度で赤茶けた何かが攫った。

 何が起きたのかわかっていないトロイとラポにも同じものが迫ると、優しく包み込むように巻き付く。そこで二人は、それが鎖であることに気が付いた。

 追いかけるようにして大量の鎖が伸びてくると、それらは絡み合い、太さを増し、二人を挟むように巨大な柱が乱立する。

 そして二人に巻き付いた鎖に、方々の柱から伸びた鎖が絡むと、落下する二人に引っ張られ激しい火花を散らした。

 落下の勢いは徐々に殺されており、いずれ無事に着地できる程度には減速するだろう。そう察し、命の危機の去ったトロイとラポはようやく下に目を向ける余裕ができた。

 未だ地上からは遠く、眼下には夜闇が全てを覆い隠す。

 まばらに照らす光は星空の如く。

 夜空を落ちる彼らに、まるで空へと落ちる・・・・・・ような錯覚を与えた。


「未だにわっけわかんねぇけどよぅ、とりあえず助かったな」

「そうですね…」

「正直言ってこのまま寝てぇ」

「ねぇラポ、信じられます?ギルドでラポに絡まれてからたった数時間しか経ってないんですよ」

「はぁーあ、その数時間にイベントが多過ぎんだよ」

「この後、また山ほど問題が起こりそうなんですから、その時頼みますよ。もし荒事になったら俺じゃどうしようもならないんですから」

「ああ、姉ちゃんだからな。守ってやるさ」

「兄とは言わないんですか?」

「今の体に血の繫がりはねぇだろが」

「違いない」


 落ちる二人は、空の上で笑いあった。

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