実体在りし幻影
有原ハリアー
極北の双騎士
「さて、見回りも終わった事だし戻ろうか。姫様」
「はい、騎士様」
アルマ帝国が領土の一つ、サナート。
そこには、アルマ帝国が国境の総本山という役割があった。
鋼鉄人形“リナリア・シュヴァルツリッター”を駆るブレイバ・クロイツとブランシュ・アルマ・ウェーバーは、一時的にではあるが、不在となった「国教の守護者」という役割を任ぜられていたのである。
『た、助けてくださいブレイバ様!』
そこに、念話(精神での会話)が飛んできた。
悲痛な声だ。
『どうした!?』
『せ、背中から炎を噴くリナリア・シュヴァルツリッターのような鋼鉄人形が……ひぃっ!?』
『は、
次々と混線する念話だが、ブレイバは瞬時に状況を察した。
「姫様、行くよ」
「はい、騎士様」
二人は操縦席のクリスタルにそれぞれの手を乗せる。
一瞬遅れ、リナリア・シュヴァルツリッターが
*
「何だい、これ……」
「ッ……」
現場に駆け付けた二人は、惨憺たる状況に目を疑った。
守護隊に回された新型指揮官機“ストレプトカーパス”23機が、たった1機の機体に壊滅させられていたのだ。
機体に搭載されていた反応炉は余さず潰され、上半身と下半身は両断され、兵装も大半を使用不能にさせられていた。
『ひっ、ブレイバ様、助け……』
1機のストレプトカーパスが謎の機体に、右手だけで頭部を掴まれ、持ち上げられていた。
既に両方の腕部と脚部は破壊されており、頭部と胴体だけが残っていた。
『脱出しろ! 僕が相手をする!』
ブレイバの言葉の後で、球体がストレプトカーパスの背中から飛び出す。
遅れて、謎の機体がストレプトカーパスの頭部を握り潰した。頭部をもがれた胴体が、ズシンと音を立てて地面に落ちる。
謎の機体は興味を失ったように頭部を放ると、背中から長剣を抜いた。
レイピアに似て
その切っ先が、リナリア・シュヴァルツリッターに向けられた。
『戦って』
謎の機体から、女性の声が響いた。
『私と戦いなさい、ブレイバ・クロイツ、ブランシュ・アルマ・ウェーバー!』
『言われなくても戦ってやるさ、人殺し!』
ブレイバが女性を
『わたくしは一人も殺してないわよ? ただ、邪魔な機体は全て潰したけれど』
長剣を回し、切っ先を地面に突き立てる。
(余裕の表れか挑発か……。けど、隙が無い。
なら、気を引き締めないとね……!)
リナリア・シュヴァルツリッターも謎の機体への返答とする為、大剣を眼前に構え、剣礼を行う。
『アルマ帝国国境が守護者、ブレイバ・クロイツ、そして我が愛機たるリナリア・シュヴァルツリッター、参る!』
大剣を構え、ブースターを噴射させて謎の機体に迫る。
「姫様、もしもの時は脱出を」
「はい、騎士様」
ブレイバとブランシュが意思疎通を図る頃、謎の機体もまた長剣を構えていた。
『行くわよ……!』
同時に迫る2機が、剣を交える。
と、この初撃で互いの強さを把握した。
「くっ、強い……!」
「流石、わたくしの……!」
一部を除けばほとんどそっくりそのままな2機は、動きすらも点対称になっていた。
袈裟斬りを仕掛ければ袈裟斬りで、盾による刺突を狙えば盾による刺突で、2機は互いの動きをそのまま真似たような動きをしていた。
「こちらの動きを読んでいる……?」
「やはり、この動きは昔から……!」
曲芸にも似た、近接格闘の連続。
互いの力は拮抗し、押しも押されもしなかった。
「なら……!」
埒が明かない状況を打破すべく、ブレイバが決断する。
「姫様、霊力を頂きます」
「わかりました、騎士様!」
次の剣戟で勝負を決める。
その為の霊力が、リナリア・シュヴァルツリッターに集中していた。
「……ッ!?」
謎の機体の
そして再び、2機が点対称な攻撃を同時に仕掛けた。
「攻撃パターンそのものが同一なら、霊力で押し切る……!」
「ぐっ……!」
意図を察した女性も霊力を込めるが、遅かった。
「これで、どうだ……!」
「あぁっ……押し、切られる……!」
そして――
謎の機体の長剣と大盾が、同時に両断された。
『勝負あったな! 姿を明かせ!』
ブレイバは胸部に大剣を突きつけながら、投降を呼びかける。
『ふふっ、見事ですわね』
女性の返答が響いた。
遅れて、胸部のコクピットブロックが開く。
『それでこそ、わたくしのお父様ですわ』
現れたのは、ブレイバ譲りの狐耳と尻尾を携え、ブランシュ譲りの胸と銀髪を備えた女性であった。
『君は……』
『申し遅れましたわ。
わたくしは“グレイス・アルマ・ウェーバー”。
お父様、そして一緒にいらっしゃるお母様の娘ですわ』
グレイスと名乗る女性は、片膝を地に付けて跪きながら、ブレイバとブランシュに語り掛ける。
「姫様、彼女は……」
「いえ、騎士様。言われてみれば、わたくしも騎士様も、あのお方に似ている所はありますわ」
「会ってみるかい?」
「騎士様、頼みますわね」
ブレイバとブランシュは、ゆっくりとリナリア・シュヴァルツリッターから降りた。
「ああ、お父様、お母様……!」
二人の姿を見たグレイスは、目に涙を浮かべながら、喜色満面と言った様子で抱きついた。
「お会いしたかったですわ……アイタッ!」
「こら、グレイス」
「え、騎士様?」
が、ブレイバは抱きついたグレイスに、一度だけゲンコツを振り下ろした。
「人騒がせも大概にしなさい!(本当に僕の娘かどうか、わかんないけど……。それでも、きっちりケジメを付けさせないとね。
それはそうと、やっぱり姫様の娘を自称するだけあって、そっくりな匂いだなぁ)」
「ご、ごめんなさい……」
「まずは謝罪
守護隊の
「は、はぃい……」
尻尾を振りながら謝りに行くグレイスを見て、ブレイバは満足気であった。
「き、騎士様……」
「うん、あの子はホントに僕達の娘みたいだね」
心配そうな問いかけをするブランシュに、ブレイバは微笑みながら答えた。
「……ええ、そうですわね。
うふふ、騎士様❤」
「ふふっ、姫様❤」
二人は未来の娘を眺めながら、互いの愛を確かめたのであった。
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