第41話 信奉と因縁
ユリウスは私の攻撃を鉄の爪を使って巧みにそらす。しかし、私も彼に攻撃の隙は与えない。一瞬の隙を突いて相手の鉄の爪を弾くことで大きく体勢を崩す。
「はぁっ!」
そこにローシャが矢を放ちそれは彼の胸に命中したが、致命傷には至らなかったようだ。
「はぁぁっ!!」
に彼は怯む事なく雷を纏わせた爪で攻撃をしかける。剣で攻撃を仕掛けても、その剣が不思議な力で弾かれているような感覚になる。
「この先には……絶対にっ……!!」
左手の甲から激しく雷の力が漏れたかと思うと、ローシャの方に電気を飛ばす。直撃はしなかったが、彼女は弓矢を落とし、それを再び握ることは出来なかった。
「くっ……あとは頼んだぞ……アリン。」
私は連続で切りを繰り返すが、弾かれてしまった。しかし、攻撃を弾く時に僅かな隙が出来る事に気がついた。よく見ると、剣を受ける時には青白い光が集まっている。そして青白い光が集まっていない所に剣を放つと、ユリウスは回避しているのがわかった。
「はぁぁっ!!」
私は彼の放った雷をかわしながら彼の右側に移動した。最初にわざと大きく振りかぶって放った右の剣をユリウスの右手で受け止められた。私はこの時を待っていたのだ。左の剣で腹を貫きそのまま倒した。
「くそっ……」
「お兄ちゃんの為だもの。負けられない。」
そう言いながら私はユリウスの義手を破壊した。同じとき、エリーゼさんたちも敵を倒し終えて私の方にやってきた。
「ご苦労だったわ二人とも。カイン、ローシャの麻痺を治してあげて。」
「分かりました……ローシャ、他に怪我は無いか?」
「あぁ、感電して麻痺した以外は大丈夫だ。」
エリーゼはユリウスを治療しながら、彼に対して質問を始めた。
「ゾフィーとはどんなつながりが?」
「……俺はゾフィー様の教育係をしていてね……今から4年前にメイジー様以上の力があるにも関わらず魔王になれなかったのが許せなかった。そしてそれはゾフィー様も同じだった。だから俺は、あの方を死んだ事にしてこの組織を作ったのさ。俺はただゾフィー様を魔王の座に付かせたかった、その為には何をしても構わなかった……それだけだ。」
彼の顔は何処か満足げに見えた。
「何故義手を?そうとは知らなかったわ。」
「逃げた後にに俺たちは賊との抗争に巻き込まれてな……その時、ゾフィー様は右腕を切断しなくてはならない程の深い傷を負ったんだ。ならばと俺は左手を切り落とした。それ以来義手なんだ。それからは、ゾフィー様が武器にもなるこの義手を作って下さったりした。」
私は彼の言っている事も理解できないわけでは無かった。私がお兄ちゃんやハンナの為に命をなげうつような事をしているのを愚かしく思う人もいるだろう。しかし、彼がしたかった事はそれと同質なのではないかというような気がしたのだ。
「そう……分かったわ。最後に一つ。あんたがゾフィーのやりたいことをやらせて、それで彼女を傷付けることになった訳よね。後悔は無いの?」
「……」
エリーゼは何も言わない彼を捕縛し、あとからやってきた兵士にユリウスの身柄を引き渡した。
「中々首尾よく行ってるみたいじゃないか。」
その兵に混ざってオリヴィエもやってきた。
「お兄ちゃんは……!?」
「申し訳ない。取り逃してしまった……」
「そう……」
「ディアスをとっ捕まえて支配を解除してもらおうぜ。時計塔に入ろう。」
オリヴィエはエーテルを生成して、時計塔のある建物の扉を破壊した。扉があった所で張り込むが、特に誰かが現れる事はなかった。
「新手は居ないか……?亜燐、俺と時計塔の方に行くぞ。それ以外は……そっちから本部の建物に入れるはずだ。他の兵士にも向かわせているが、エリーゼ達が先行して掃討してくれ。」
階段を昇った先に感じた殺気に私は刀に手をかける。
「
刀をわずかに抜刀し、目の前に突然姿を現した剣士の攻撃をいなす。そこに居たのは私と同じ顔をしたゾフィーだった。よく見ると、後ろには十字に張り付けられた魔王の姿があった。
「来たわね……オリヴィエ、それにアリン。ここで待って正解だった。」
「お前を止めに来たんだよ。一応行っておくが、この街は既に陥落寸前だ。抵抗するのは勝手だが、これ以上やってお前に得はないはずだ。」
「なら、何でリスクを冒してまであんたはここに来たのかしら。」
「お前にだって分かっているはずだ。」
「……これ以上の言葉は無駄よ。さっさと出て行って!!」
ゾフィーは私達から距離を取ると、黒い泥を大量に出現させる。
「今度こそ連れ戻す……だから応えてくれ、エクスカリバー!!」
それに対抗するかの如く勇者は青い光の剣を生じさせ、彼に向けて飛ばされた泥を全て相殺した。
「様子見はこれくらいにしましょうかしら。」
右腕を剣に変えてふらつきながら左手にそれを構える。
「はぁぁぁッ!!」
ゾフィーは片手で素早く剣を振るい、オリヴィエの守りを崩そうとした。だが、そう簡単には彼も倒れる事はない。
「そのまま壊れてしまえッ!!」
後ろから槍を持った泥の人形を近づけて挟み撃ちにしようとしているのが見えた。私はすぐさまこれを斬り退ける。
「助かる。あいつの力は反エーテルの魔術だ。俺の魔術と似た性質をしているが、あっちの本質は毒だ。今みたいな奇襲に気をつけろ。」
もう一度向き合った私達を睨みながら、彼女は左手の剣を構える。
「……フェイタルガイスト!」
ゾフィーは剣に黒い泥をまとわせ、薙ぎ払った。衝撃で拭き飛ばされて何が起きたかは分からなかったが、隣はに血だらけのオリヴィエがいた。
「……くっ……」
青い光を集めて自らを回復させる彼に、黒い泥を浴びせようとするゾフィーを見た私は即座に斬りかかった。
「あんたから消してやる……!」
左に構えた雷の細剣で相手の剣を受け止めたが、さっきの攻撃のように長く鍔迫り合いもしたくはない。すぐさま距離を取り、振り下ろした相手の剣にこちらの一刀を当てる。
「
そこを支点にゾフィーの持っていた剣を吹き飛ばし、彼女の肩に剣を突き刺す。
「もう諦めなさい。」
彼女から剣を抜こうとした時、私は首を絞められるような感覚を覚えた。よく見ると、私の首元に黒い泥が絡みついていた。
「まだ……死ぬわけにはいかないのよ。」
彼女は更に強く私の首を締めあげた。苦しさもどんどん増していく。その時、勇者オリヴィエが彼女に駆け寄っていった。
「そこだッ!!」
オリヴィエはゾフィーの胸にエーテルの剣を突き刺した。その瞬間、私の首を絞めていた泥もどこかに消え去った。私は床に倒れて咳込んだ後、魔王メイジ―を解放した。
「お前の反抗も、これでおしまいだ。」
「……おねえちゃん……私の事、全部知ってた。」
「何……?」
「革命軍のトップが私だって、気づいてた。宮殿から無くなったこの剣の事、知ってたの。だけどそれを認めたくなかったからあんたには黙ってた。国の事好きって言っておきながら、身内には甘いんだなぁ……」
「馬鹿野郎……お前を一番気にしてたのはな、アイツだったんだぞ。疑似エーテルの使い方を教えてくれたのは誰だったか思い出せよ。魔王や勇者になれなくても引け目を感じないようにとアイツにも俺にも使えない、だけどお前には使いこなせる秘術を教えようとしたんだ。」
オリヴィエは彼女を回復しながら叱った。ゾフィーは何を思ったのか、目に涙を蓄えてしゃがみ込む。そんな中、メイジーが彼女達のそばに座った。
「まだ私を恨んでいてもいいです。ですけど、あなたの悲しみは絶対に無駄にはしません。あとでじっくり話は聞きますね。」
そう言ってメイジ―はゾフィーに催眠の魔術を使った。
「今は生きて帝都に連れて帰る事に専念しましょう、オリヴィエ。ここで
「ああ……そうするよ。」
オリヴィエはゾフィーをおぶって立ち上がる。
「メイジー……無事で良かった。」
「ここから私はどう皆に詫びればいいのでしょうか……」
「そう深く考え込むもんでもねぇよ。完璧主義過ぎるのも考えものだ。自分を殺しかねない。」
「だけれど、私は常に民の前に立つ者でなくては……アリン、こんな事になってしまい申し訳ありませんでした。」
「いえいえ……」
私はありきたりな返事しか出来ないまま、時計塔の階段を降りた。
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