第21話 大切なひと

 翌朝私は目を覚ますと、隣には一糸纏わぬ姿のハンナが寝ていた。昨晩の事を思い出すと途端に恥ずかしくなって起こせなかった。


 しばらく寝たふりをしていると、ハンナが後ろで動いているのを感じた。


「起きてる……?」


 消え入りそうな小さな声で、私は彼女に話しかける。


「うん、今起きた。」


 ハンナはそう答えると、私の後ろで服を着始めた。


「そっか…おはよう。」


 私も近くに雑に置かれた服を着て、ベッドに座る。それからは気まずい沈黙がしばらく続いた。


「ご飯…食べよっか。」

「うん。」


 私は部屋の片隅に置かれた紙袋の中からパンを取り出して、ハンナに渡す。


「ごめんね。これしか無かったの。最近食欲が無くてさ…」

「大丈夫。君と食べられるなら…良いよ。」


 パンを渡したのをきっかけに、いつもの私達に戻ってきた。ベタな作戦ではあったが案外上手く行ったようだ。


「うん…これ良いね。今度、この店教えてよ。」

「あぁ…これエリーゼが作ってくれたのよ。」

「へぇ…エリーゼさん料理上手いんだ…」



 そうは言いながら、私は中々食べる手が進まなかった。ここ二、三日は食事があまり喉を通らなかったのだ。ハンナがパンを食べ終わった頃には、私はまだ半分しか食べられていなかった。


「ご馳走様。半分残っちゃったな…」

「じゃあ、僕がそれ食べようか?」


 私はハンナにパンを渡した。彼女がパンを頬張る姿を見て、私は少し元気になれたような気がした。


「じゃあ、僕はこれで…また会おうね!」

「待って…あの、ここに帰ってくるのじゃ…ダメ?」


 ハンナは少し困惑したような顔をした。


「でも…基本的にこの寮には部外者を泊めてはいけないんじゃ…?」

「大丈夫。ハンナは私に協力してくれた仲間だから…多分大丈夫よ。それにね…」


 私はこれから言おうとする事が…ハンナに想いを伝える事が…恥ずかしくて口ごもってしまった。こちらの意図を察したのか、ハンナも顔を赤くする。


「い…言うなら早くしてよ……」

「ハンナの事……好きになっちゃった…だから…一緒にいて欲しいの。」

「アリンちゃん…良かった…」


 彼女は私に抱きついた。私も、彼女の小さな肩を抱き返す。


「もう…アリンちゃんを一人にしなくて良いんだね?」

「うん…あんた…じゃなくて…あなたにとってのしばらくの間…一緒にいて欲しいな。」

「ありがとう…アリンちゃん…!!」


 私自身、ハンナに何か恋愛感情に似たものが芽生えていた。それを昨日の夜、確信に変える事が出来た。あんな風に体を委ねる事は…相手が同性で、しかも儀式の為とはいえ全く嫌がらずに許す事は中々出来ない。


「僕は、これからこの武器を完成させてくるよ。2時間くらいここを開けるけど…大丈夫かな?」

「うん。大丈夫。」

「よし。行って来るね…と、その前に…」


 彼女は照れながら髪をかきあげて、額を見せた。


「えっとね…キス…お願い。」

「もう…仕方ないわね…」


 私は、ハンナの首の後ろに手を添えて彼女の額にキスをした。


「行ってらっしゃい、ハンナ。」

「うん。出来るだけすぐに帰るからね。」



 しばらく待っていると、ハンナが帰ってきた。彼女はカバンから二丁の刃が付いた短銃杖を取り出した。


「暇しちゃってた?完成したんだ、これ。」


 ハンナは、真剣な顔で武器を見せた。


「そっか…頑張ったね。」

「後はここで最後の調整をするだけ。それで明日、武器の性能を試したいんだ。街の外の森に来てくれるかな?」


 私は、真剣に私を守ろうとするハンナに出来るだけ付き合ってあげたいと思った。


「勿論良いよ。私に出来る事があれば、何でもやるわ。」


 お兄ちゃんと会わせる為に協力してくれるハンナは、いつしか私にとってお兄ちゃんと同じくらい大切な人になっていた。

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