第165話 本当の動機

 くそっ。頭がガンガンする。

触れるとやっぱり痛いが、どうやら出血は収まったみたいだ。

それでも背中を殴られたせいでまだ息苦しい。

 入口付近には、ガタイのいい男二人に水樹と田口が羽交い絞めにされている。


 ヤバイな……



 そうこうしている内に景山は柚希の隣に立っていた。

 そして何やら壁を弄っている。

 ぽろぽろと壁が崩れ、壁の中からビデオカメラが出てきた。


「はは、驚いただろう? 倉庫の中をずっと撮影してたのさ。そして今度はこの女達を撮影するんだよぉ。これでお前達は今後一切俺に逆らえなくなるのさぁ」


 景山が悠々と勝ち誇るように語る。

 それを聞いた水樹が口を開いた。


「ははっ。バカだなお前」

「あ? 何がおかしいんだよイケメン君~?」

「仲間から聞いてないのか? そろそろ俺たちが呼んだ警察が来るはずだ」

「……」

「そんな大層な物的証拠があるなら言い逃れは出来ないぜ?」


 確かに水樹の言う通りだ!

 俺たちがここで時間を稼ぐことができればきっと……


「くく、はーはっはっはっ!」

「あれれ、この人ビビって頭までおかしくなっちゃった? グゥッ?」


口を挟む田口の腹を思い切り殴りつける景山。

その表情は依然、余裕を保ったままだった。


「俺が簡単に捕まるほどバカだと思ってんのか、あぁ!? この程度なら親父の権力と金さえ使えばどうって事ねぇんだよ! あはははっ!」


 そういやコイツの父親は政治家だった。

これ程の息子の不祥事ならさすがに黙っては居ないと思うが、景山の反応を見る限り強がりでもなさそうだ。

 

「さすが景山さん。あと、いつも通り俺達の姿と声はうまく隠してくださいよ?」

「わかってるって。編集してちゃんと楽しめるシーンだけ見せてやるからよ。アシはつかねぇさ」

「散々ヒドイ事をしてネットにアップしても自分の痕跡は残さない。マジ痺れるッス!」


 

 コイツらは! どこまでクズなんだ!

どこまでも湧き上がる怒りに痛みすら消えていく気がした。


 やっとの思いで膝立ちになった俺を一瞥すると、


「くひひ、そういうことだから楽しもうぜぇ。大好きなお兄ちゃんの前で沢山なぶってやるよぉ」

「んんん~!」


 そう言いながら景山が柚希の身体に触れた瞬間


 

 ――――俺の中で何かが切れた。



「やめろぉ!!」



 さっきまで動かなかった身体が嘘の様に動き、


「な、なんで動け、ぶはぁっ!」


 景山の顔面に渾身の右ストレートが炸裂した。

 助走をつけたパンチをモロに食らった景山は仰向けに倒れてピクリとも動かない。


「ぜぇ……はぁ……柚希に触るんじゃねぇ」

「んんん!」

「ん~んんん!」

「待ってろ、すぐに縄をほどいてやるからな」


 泣きじゃくる二人にそう声を掛け、柚希の猿ぐつわから外す。

 その直後、


「お兄ちゃん危ない!」

「え?」


 振り向くと、いつの間にか景山が後ろに立っており、手にナイフを持って振りかざしていた。

 そのままナイフが振り下ろされる。

 咄嗟に腕でガードするが、ナイフが左腕に突き刺さった。


「ぐぁあああっ!」

「お兄ちゃん!」

「ひゃっはっはっはぁ! ざまぁみろ!」


 腕に刺さったナイフが引き抜かれる。

 刺された傷口から血が溢れ、それを見た柚希が泣き叫ぶ。


「お兄ちゃんもう止めて! 死んじゃうよぉ!」

「大丈夫だ……お前の兄貴は強いんだぞ……」


 そう言って柚希の頭を撫でる。

 その光景を見ていた景山が


「美しい兄弟愛ってかぁ? 反吐が出るよぉ」

「お前には一生解らねぇよ」

「女の前だからって強がるなよ。今すぐ泣き叫びたいんだろぉ?」

「確かに泣きたい位痛い。だけど大切な人を見捨てる理由にはならないな」

「チッ! くだらねぇ」


 左腕が上がらないうえに景山はナイフを持っている。

 頭はガンガンと痛いし背中も痛くて真っすぐ立てない。


 それでも俺は柚希の前に立たなくちゃならない!



「景山、お前は確かに凄いよ。日本最高峰の大学に入って、慕ってる友人や後輩も多い。努力なしじゃ出来る事じゃない」

「あ? どうしたんだ急に。俺を煽てて許しでも乞うつもりかぁ?」


 こいつがどれだけ努力をしてきたのか、俺にはわかる。

 

「さっき言ったよな。お前と柚希が似ているって」

「ああ、そうだよ! 自分の価値を高める為に他人を利用するってなぁ!」


 確かに最初は柚希も周囲を利用してた。

 だけど……


「なら、どうして柚希がお前を振ったと思う?」

「さぁな。お子様の考える事なんて知るかよ」


 周囲の人間を無作為に傷つけたりしない。

 柚希は……


「違うんだよ。お前とは」

「は?」

「お前に利用価値が無いって事だよ」

「っ!!」


 そう言うと、景山は近くにあった跳び箱を蹴飛ばす。


「この俺に利用価値がないだぁ? フザけんじゃねぇぞ!」

「お前と付き合ってたら自分の価値が下がると思ったんだよ」

「テメェ!」

「一流の大学に入って、人望もあって、何が不満だったんだ?」

「俺に人望があったぁ? はっ! アイツ等は俺の金しか見てねぇよ」


 声を荒げ、ガンガンと鉄パイプを床に叩き付ける。

 ここまで動揺した景山は初めてなのだろう。

 指をさされた二人の男達は呆気に取られた顔をしていた。


「だからこんな事を始めたのか」

「そうだよ! 俺はあの人みたいになりたかったんだ! あの時俺にもっと人望があればチームは解散しなかったかもしれないんだ!」


 コイツはもしかして自己顕示欲が強いんじゃなくて……。


「そんな事俺には関係ない。俺だって努力してきた。妹に、恋人に、友人に胸を張れる自分になる為に」

「お兄ちゃん……」

「友也……」

「うるっせぇ! 何が努力だ! 努力の結果がそのザマだろうがぁ!」

「そうだな。努力のお蔭で今此処に立ててる」

「なんなんだテメェは! とっととくたばれぁああ!」


 ナイフを突き出しながら突進してくる。


「きゃあ! 友也さん!」

「やべぇぞ、友也!」


 皆が一斉に騒ぎ立てる。

 なんだろう。動きがスローモーションに見える。

 それに一人一人の言葉一つ一つが鮮明に聞こえる。


 大丈夫だ。

  

 何故か落ち着いた頭に根拠のない自信がよぎる。

 そして、眼前に迫ったナイフを躱しながら渾身の右ストレートを放つ。

 ナイフは俺の顔をかすったが、俺の拳は景山の顔面に突き刺さった。


「う、らあぁぁぁ!!」


 右手から全身に衝撃が走る。

 痛みに耐え拳を振り切ると同時に、景山は糸の切れた人形の様に地面に倒れ伏した。

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