第146話 動物公園
翌日の昼休み、食堂からの帰り道で盛大に溜息を吐いた。
昨日沙月と喧嘩をして、どうすれば仲直り出来るか水樹に相談をした。そのお蔭で俺が沙月に対して不誠実な対応を取ってしまっていた事を自覚出来た。
沙月に会って誠心誠意謝ろうと思ってLINEを送ったが見事にスルーされたのだ。
「このまま終わりってことはないよな……」
そうひとりごちて自分自身に言い聞かせる。
それに水樹が動いてくれているんだから焦っちゃ駄目だな。
教室に戻るとやはりと言うべきか、雰囲気がいつもより重く感じる。
その原因はクラスのトップカーストである中居と及川が喧嘩しているのが原因だろう。皆触らぬ神に崇り無しといった感じでいつもより俺達のグループから離れている。
当の本人である中居と及川は口を利くどころか近づこうとすらしていない。及川はずっと女子グループで固まっているし、中居は中居でいつも以上に誰も近づけないオーラを出している。
そんな二人を教室の入り口付近で見ていると
「和樹と佳奈子って何かあったん?」
と早川が聞いてきた。
「まぁ、ちょっとな」
「ふ~ん、っつーか友也も何気に元気なくない?」
「そ、そんな事はないぞ」
「なになに? もしかして彼女とケンカでもしたん?」
「そんなんじゃないって」
「ホントかな~?」
そういいながら肘でウリウリとつついてくる。
どうしてギャルってこんなスキンシップ激しいんだろう。
「本当だって!」
「な~んだ、つまんないの~」
そう言って早川はいつものグループに戻って行った。
なるべくいつも通りにしてたハズなんだけど何処かで顔や態度にでちゃってたのかもしれないな。
これじゃ中居達の事をどうこう言えないな。
それから午後の授業も終わり帰り支度をしていつもの場所に行くと、そこには中居しか居なかった。
「あれ? 水樹と田口は?」
「水樹が話があるっつって田口を連れ出してった」
「珍しいな」
「水樹の事だから何か企んでるかもな」
「ありえる」
それから暫くして水樹だけが戻ってきた。
「悪い、待たせた」
と、軽い感じで謝って来る水樹に対して
「悪巧みは終わったのかよ?」
「そんなんじゃねぇって。恭子ちゃんの事で相談があるって言うから乗ってただけだ」
「ふ~ん、ま、別にいいけどよ。取りあえず帰ろうぜ」
そのまま三人で教室を出て、雑談しながら駅へと向かう。
駅の近くまで来た時、水樹が思い出した様に立ち止まる。
「チケット渡しておくわ」
チケット? 何のチケットだろう。
俺と同じ疑問を持った中居が水樹に尋ねる。
「なんのチケットだ?」
「何って、明日の動物公園のチケットだ」
「マジで行くのか」
「当たり前だろ? こんな時こそパーッと遊ばないとな」
「何が悲しくて男だけで行かなきゃならねぇんだ」
「どうしてこうなったのか思い出してみ?」
「……チッ!」
中居は痛い所を突かれたといった感じで舌打ちする。
一方の水樹はしてやったりといった表情だ。
そんな水樹と視線が重なると
「友也も明日はちゃんと来いよ」
「ああ、わかってるよ」
下手に抵抗して中居の様に傷口を抉られたくないので素直に頷く。
「んじゃ俺はこれから用事あっから」
と言って駅構内に消えて行った。
残された俺と中居が同時に溜息を吐き、今日は解散となった。
翌日、待ち合わせ場所である入場券売り場近くのベンチで二人を待っている。
動物公園はクリスマスが近い事もあり、カップルの客が多く感じる。
それにクリスマス限定イベントも開催しているとチケットに書かれてあった。
次々と入場していくカップルを眺めていると
「おっす、友也はちゃんと来たんだな」
「おはよう。俺はってことは……」
俺は水樹の横に居る中居に目を向けると
「ちゃんと行く予定だったのにコイツがわざわざウチまで迎えに来やがったんだよ」
「いやー、お前の事だから直前になってやっぱ行かねーとか言いそうだったし」
「チッ」
中居、その反応は図星だったんだな。
でも、中居の気持ちも分からなくはない。
カップルだらけの中に男だけで行くのは中々惨めな感じがするからな。
まぁ、ここまで来てウジウジ考えてもしょうがない。
「皆揃ったしそろそろ行くか?」
「ん? ああ、そうだな。そろそろ行くか」
水樹が時計を気にしていたので提案したが、どこか上の空に感じた。
俺達はベンチから離れ入場ゲートに向かって歩きだす。
すると水樹のスマホが鳴り、立ち止まって何やら会話を始めたかと思うと
「悪い、実はナンパした子も来る予定なんだけど道が分からないらしいからちょっくら迎えに行ってくる。お前達は先に中に入っててくれ」
と言って駅の方へ戻っていってしまった。
中居は「はぁ? フザけんな!」と怒鳴ったが、水樹はそれを意に介さなかった。
「しょうがない、とりあえず言われた通りにしとこうぜ?」
「ったく、何だよナンパした女ってのは。聞いてねぇぞ」
「まぁまぁ、水樹なりに気を利かしたんじゃないのか?」
「アイツが楽しみたいだけだっての」
中居が水樹への不満を口にしながら俺達は入場ゲートへ向かう。
すると入場ゲート近くに今は絶対に会いたくない人物達が居た。
その人物達もこちらに気づいた様だ。
「こんな所で何してんの!」
「もしかして浮気ですか?」
そこには仁王立ちでこちらを睨みつけている及川と沙月がいた。
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