第130話 自慢

 皆でファミレスに行ってから二日が過ぎた。

 最初こそは揶揄われたりしたが、今はいつもどおりに過ごしている。


 だが、今までと違う点がある。

 毎日行っていた柚希との会議が無くなったのだ。


 俺に彼女が出来たから必要無くなったのかと思ったが、そうでは無かった。

 一度なんで会議が無くなったか聞こうと柚希の部屋を訪ねたら、中から柚希の話声が聞こえた。

 聞こえてくる会話で彼氏と話しているんだという事が分かった。

 会議が無くなったのは俺に彼女が出来たからではなく、柚希に彼氏が出来て俺に構う時間が無くなっただけだろうと結論づけた。


 まぁ好きな人を優先してしまう気持ちは分かる。

 俺も沙月とは結構長電話してしまうからな。

 だけど、兄としては少し寂しい気持ちもあった。



 以前までは会議の時間だったが、今はアニメを見る時間になっている。

 大体は録画した物を消化している。


 今日も録画していたアニメを見ようとテレビを付けると、臨時ニュースがやっていた。

 いつもならスルーするのだが、ニュースの内容が見逃せなかった。


 アパートの一室で女子高生が監禁されていて未だに犯人が捕まっておらず、しかも犯行のあったアパートが俺の地元だったからだ。

 妹を持つ身としてはやはり心配してしまう。


 ニュースを見ているとLINEの通知音が鳴った。

 確認すると楓からで、内容は〈話したい事があるから明日早めに学校に来て欲しい〉との事だった。

 俺は〈分かった〉と返事を返し、明日の為にアニメは諦めて寝る事にした。



 翌日、いつもより早く登校して理科室に向かう。

 教室に入ると既に楓が居たが、表情が優れない。


「おはよう」

「おはよう、急にごめんね」

「大丈夫だよ。それより話って? 何か困った事でもあった?」


 と聞くと、楓は少し言いにくそうに


「柚希ちゃんに彼氏が出来たのは知ってる?」


 と聞いてきた。

 柚希に彼氏が出来た事は誰にも言っていなかったので少し驚いた。


「ああ、知ってるよ。でもどうして楓が知ってるんだ?」

「昨日の部活の時に皆に彼氏が出来たって話してたの」

「なるほど、彼氏を自慢してたって訳か」

「まぁ、そうなるのかな……」


 柚希の事だからきっと凄い自慢をしてたんだろうな。

 と考えていると


「それでね、柚希ちゃんから一緒に帰ろうって誘われて一緒に帰ったんだけど……」


 楓は少し俯いて


「柚希ちゃんからね……私にはがっかりしたって言われたの」

「え?」

「私がもっと頑張って友也君と付き合ってれば上手く行ったのにって」

「アイツそんな事言ったのか!」

「だから彼氏を作ったって言ってた」


 何だそりゃ。俺が楓と付き合わなかったから彼氏を作った?

 しかもそれを楓に話すなんて何考えてるんだ!


「友也君は柚希ちゃんの彼氏がどんな人で、どうやって知り合ったか知ってる?」

「いや、知らない。聞いても教えてくれなかった」

「柚希ちゃんから聞いたんだけど、SNSで知り合ったみたいなの。それ自体はいいんだけど、彼氏の方が少し引っかかって……」


 彼氏については大学生という事しか聞いてない。

 楓が引っかかりを感じたという言い方に得体の知れない不安が過る。


「その彼氏は有名国立大学の4年生で法学部らしいの。父親が政治家で権力もあるって聞かされたの」

「マジか。凄いハイスペックだな」

「うん、だから少し心配になっちゃって……」

「心配っていうと?」

「柚希ちゃんて昔の私みたいに……ううん、それ以上に自己顕示欲とか高いと思うの。だから、その彼氏の事本当に好きなのかなって。欲求を満たす為だけに付き合ってるんじゃないかって思って……」


 楓の言葉を聞いてハッとする。

 楓と俺が付き合っていれば上手く行っていたという発言と、それが上手く行かなかったから彼氏を作ったという発言から、楓の考えは当たってるんじゃないかと思った。


 柚希は当初、俺と学校一の美少女である楓が付き合う事で自分の価値も高まると考えていた。

 そんな柚希の考えとは違い、俺は沙月と付き合った。

 だから手軽に自分の価値を高める為にスペックの高い彼氏を作ったのだろう。

 恐らく、その彼氏に対して恋愛感情は持っていないと思う。



 俺が沙月を選んだ事でこんな事になるとは思わなかった。

 これは一回キチンと話をした方がいいかもしれない。

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