第34話 新島楓の独白

 夜、新島の気持ちや俺の気持ちについて悶々としていると、新島からメッセージが来た。


〈今日は本当にごめんなさい〉

〈いや、気にしなくていいから〉

〈ありがとう。それで明日なんだけど、一時間程早く学校に来れる?〉

〈大丈夫だけど、なんで?〉

〈話したい事があるから〉

〈わかった〉

〈ありがとう、おやすみなさい〉


 ふぅー。なんかいつも以上に緊張したな。

 それにしても話がある、か。

 きっと今日の事だろうな。

 今はあれこれ考えてもしょうがないし寝るか。



 翌朝、いつもよりかなり早い時間に家を出た。

 柚希に理由を聞かれたが、新島が話があるって言ってたと伝えたら何故か頑張れと応援された。

 

 学校に着き教室に入ると既に新島が居た。

 さすが10分前行動だな。


「おはよう、早いな」

「おはよ~、私もさっき着いたばかりだよ」


 今日はどの新島だ? と考えながら登校していたが今の新島は学校での新島だ。


「まだ早いとはいえ人が来たら困るから移動しよっか」

「そうだな」


 そういって俺達は教室を後にし、今は使われていない旧理科室にやって来た。

 しばらく使われていなかった為、机等に薄くホコリが積もっている。

 新島は教室の窓側の前の席にハンカチを敷いて座る。

 俺も座ろうかと思ったがホコリを避ける物が無かった為立っている事にした。

 そんな俺を見て新島が


「立ってないで座りなよ」


 と言って横に少しズレて隣をポンポンと叩く。

 断る理由もないので隣に腰を下ろす。


「えっと、話ってなんだ? 昨日の事なら大丈夫だからな」

「昨日の事は関係…無くはないんだけど……」


 さっき教室で話した感じだといつもの新島に感じたけど、今は昨日の新島みたいに感じる。


「友崎君はさ、二年生だけじゃなくて、一年生からも人気があるの知ってる?」


 昨日柚希から聞きました。

 どうしよう、正直に答えた方がいいのか?


「ああ、柚希から聞いた。半信半疑だけどな」

「そっか柚希ちゃんがいたか。柚希ちゃん、友也君の妹って事で色々聞かれてるみたい」

「そっか、新島は同じテニス部だったな」


 と言った瞬間、新島の表情が怒った様な表情になる。

 何かマズイ事でも言っちゃったのか?


「名前で呼ぶって約束したでしょ!」


 やっぱり昨日の新島だ


「わ、悪い」

「許さない」

「ごめん、楓」

「ま、まだ許さない」

「ホントにごめん」

「許してほしかったら抱きしめて」


 パードゥン? 抱きしめて? 揶揄ってるのかと思ったが、新島の瞳は真っすぐに俺の目を見ていた。


「ホントにいいのか?」

「許して欲しくないの?」

「わかったよ」


 そう言って俺は隣に座る新島の肩を抱いて此方を向かせ、そのまま抱きしめた。

 女の人を抱きしめるのははじめてだけど、こんなに気持ちいい物なのか。

 良い匂いが鼻孔をくすぐり、制服越しでも伝わる体温、そして大きな膨らみの感触。

 息遣いが耳元で聴こえ、ぞくぞくする。

 そろそろ離してもいいかなと思っていると新島が語り出した。


「私さ、皆に注目されて、何でもトップになりたいって言ったでしょ」

「ああ」

「今は別にそんな風に思ってないんだ」

「そうなのか」

「うん、友也君が私を変えてくれた」

「俺は何もしてないぞ?」

「実は友也君の事一年の時から知ってたの」

「まぁ、ぼっちで悪目立ちはしたかもな」

「最初はぼっちで居るなんて恥ずかしくないの?って思ってた」

「俺は何とも思ってなかったな」

「でもね、一人で何でも出来るって凄い事だなって思い始めた」

「ぼっちは誰も助けてくれないからな」

「周りの視線もきにしないで、何て心が強いんだろうっていつの間にか尊敬してた」

「それはありがたいな」

「それで二年生になったら凄いイケメンに変わっててビックリした」

「努力したからな」

「どうして変わったか聞いたら彼女が欲しくて変わったなんて言うんだもん」

「軽蔑でもしたか?」

「ううん、その逆。私でも彼女になれるんじゃないかって思ったの」

「そっか」

「その時にね、友也君の事が好きなんだって気づいたの」

「ありがとう」

「それで友也君の気を引こうと意地悪しちゃったり」

「柚希の事か?」

「うん、柚希ちゃんに嫉妬しちゃってたんだ。妹なのにね」

「水瀬の時も?」

「私がこんなに好きなのに南を落としてるから、少し困らせてやろうって」

「確かに困るな」

「その一環で課題を出したりしたし」

「そのお蔭で順調に行ってるよ」

「だから……」

「……」

「今までごめんなさい」

「一つ聞いていいか?」

「なに?」

「どうして急にこんな事話したんだ?」

「昨日デートしたでしょ?」

「ああ」

「昨日は自分の気持ちに素直に行動しようって思ってデートに誘ったの」

「うん」

「そうしたらね、今まで無理して注目されようとか、トップ取りたいとかどうでもよくなったの」

「そうか」

「だから、これからはただの恋する乙女。人よりちょっと独占欲強いけどね」

「もう決めた事なんだな?」

「うん」

「そっか」

「友也君、私は友也君が大好き。付き合ってくれませんか?」

「楓」

「なに?」

「俺も多分、初めて楓を見た時から好きになってたんだと思う」

「うん……」

「でも、俺の好きは楓に比べたらまだ小さな好きなんだ」

「うん…ぐす……」

「楓が思っているよりも楓の事好きじゃないかもしれない」

「ゃだ……ごめんなさい……今までの事全部謝るから……」

「それでも、俺と付き合ってくれるか?」

「ふぇ? てっきりフラれるのかと……」

「昨日見せてくれた無邪気な笑顔をまた見せてくれ」

「うん…うん…、宜しくお願いします」

「じゃあ、そろそろ離すぞ?」

「だめ! もう少しこのままでいさせて」

「わかった」


 結局予鈴が鳴るまで俺達は抱き合っていた。

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