第26話 実戦訓練Lv2

 鏡の前で表情の確認と髪型を整える。

 もうすぐ実戦訓練としてめぐがやって来るからだ。

 前回の時と違い自分で話題を探さなければならないので若干緊張している。


『相手の事を話題にする』


 と柚希から言われているが、今の所入学おめでとう! ぐらいしか思い浮かばない。

 色々考えている内に玄関のチャイムが鳴る。

 柚希が対応しているがどうやらめぐが来たらしい。

 こうなったら覚悟を決めて当たって砕けろだ!



 リビングに入ると既にめぐが席に座っており、柚希はいつもの定位置に座っている。

 俺とめぐが同時に見渡せる位置取りだ。


「こんにちは、始業式振りだね」


 と言いながらめぐの向かい側に座る。


「こんにちは、お久しぶりです」


 と笑顔で返事をしてくれた。

 さて、ここからどう話題を探そうかとした時


「今日は敢えて学校の制服を着てきたんですけど、どうですか?」


 めぐから話題を提供してくれた。


「凄く似合ってるよ」

「有難うございます……」


 と言って顔を赤くするめぐ。

 俺までつられて顔が火照る。

 そこで柚希が


「めぐー、ちょっとこっち来て~」


 とめぐを呼んだ。

 めぐは柚希の所まで行き、柚希に何か言われているようだ。

 きっと自分から話題を提供してしまった事を怒られているのだろう。

 ごめん、めぐ。俺がふがいないばっかりに。

 そして話し終わっためぐが元の席に座る。

 めぐの顔を見ると、口を一文字に結んでいる。

 これは柚希に相当注意されたんだな。

 早く解放してあげないと。と思うが話題が出て来ない。

 さっきは制服の事を少し話したからその話題を広げるか?


「制服も高校のになって少し大人っぽくなったんじゃない?」

「ホントですか!」


 と、さっきまでの一文字は何処へやら、大きく口角を上げて満面の笑顔をみせる。

 あれ、よく見るとうっすらと化粧しているのがわかった。

 すかさずそれを話題にする。


「化粧もしてるから余計に大人っぽく見えるんだね」

「そんなに化粧分かりやすいですか!」

「いや、すごく自然な感じだよ。それがナチュラルメイクってやつ?」

「はい! 進学を機に化粧を覚えました!」

「高校デビューってやつ? でもめぐは元から可愛いからそういう訳じゃないか」

「そ、そんな……可愛いだなんて……」


 また顔を赤くして俯いてしまった。

 でも、今結構会話になってたよな。

 よし! この調子で行くぞ!


「……」

「……」


 制服以外の話題が出て来ない。

 どうすればいいんだ。相手の事を話題にするんだから……。

 あっ! これだ!


「クラスにはもう馴染めた?」

「ゆずと一緒のクラスに成れたので大分馴染めました」


 初耳だ。柚希の奴何も言って来なかったからてっきり違うクラスかと思ってた。


「そうなんだ、柚希が何も言ってくれないからクラス違ったのかと思ってたよ」

「そうなんですか? でもゆずと一緒のクラスになれて良かったです。少し不安でしたから」

「めぐなら柚希がいなくても直ぐクラスに馴染めると思うけどなぁ」

「ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいです」


 よし、いい感じで話せてるぞ。


「そう言えばテニス部にはもう見学に行ったの?」

「はい、ゆずと一緒に行きました」

「どう?やってけそう?」

「ゆずもいるし、新島先輩って人が凄く優しくて。良い部活だなぁって思いました」

「そっか。それは良かった」


 猫を被った新島は完璧だからな。ってかめぐには何もしないよな?


 それから数時間話し込んだ。友人や勉強、共通の先生の話題を見つけて話した。

 自分でも観察は得意だと思っていたけど、後半はゾーンに入ったような感覚になっていた。

 よく見なきゃ分からないようなワンポイントアクセサリ等を指摘した時はめぐも驚いていた。

 既に日が落ちかけていたので


「それじゃ、今日はお邪魔しました」


 と言ってめぐは帰っていった。

 柚希に呼ばれて早めの会議をする事になった。


「どうだった?」


 と言う俺の言葉を聞いて柚希は真剣な表情で


「やっぱり兄妹なんだなって思った」


 と意味不明な事を言い出した。


「どういう意味だ?兄妹なのは当たり前だろ」

「そうじゃなくて、観察眼の事」

「観察眼?」

「そう」


 俺が人間観察が得意なように、柚希も得意ってことか?


「私も最初から全部出来てた訳じゃないんだよ。クラスで人気のある子を観察してそれを真似てっていうのを繰り返してきたの。勉強や部活は自分の努力だけどね」

「柚希にもそんな時代があったんだな」


 昔から笑顔が絶えない明るい子だったからずっと完璧リア充だと思ってた。


「昔はとにかくいつも笑顔でいれば周りから避けられる事は無いと思ってたけど、それじゃダメだと思って観察と真似を始めて、そこに自分なりの考えを肉付けさせていく感じだった」


 なるほどなぁ。妹なのに何も知らなかった。


「それで、私とお兄ちゃんが似てるって話だったけど、やっぱり観察眼が他人より鋭いの」

「まぁ、人間観察位しかやる事なかったしな」


 ついこの間まではそうだったな。今は友達と呼べるかは微妙だけどグループに入れたしな。


「春休みにお兄ちゃん言ってたでしょ? 口角を上げて笑ったよなって」

「ああ」

「普通の人はあの程度では気づかないんだよ。気づくとしたら観察眼が異様に高い人だけ。だからやっぱり兄妹なんだなぁって思ったの」

「そういう事だったのか」


 だとしたら、俺も観察を続けて行けば学校一のリア充になれるのかも。

 だから課題として観察しろっていわれたのか。

 もしかしたら新島も同じ事をしていたのかもしれないな。


「だからお兄ちゃんは観察を続けつつ、他の課題に取り組んで欲しいの」

「わかった。俺なりに努力するよ」


 柚希の意外な過去話を聞いて、俺も以前にもましてやる気が出てきた。

 丁度親が帰ってきたので会議は終了した。

 いつも夜にやっている会議は今日は不要と言う事になった。



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