第7話 実戦訓練①
自宅に帰って来た俺は昨日柚希から教えて貰った柚希の友達の情報を反芻して暗記していた。
春休みに入ってから今日まで色々な特訓をしてきたが、果たして上手く出来るか不安もある。
俺に特訓をさせた本人である柚希は
「ちゃんと情報を整理しといてね!」
と言い残し、友人を迎えるための準備をしている。
しばらくして柚希に呼ばれリビングに向かう。
「もうすぐ来ると思うからお兄ちゃんは其処に座ってて」
「わかった」
指示に従いソファーに腰掛けながら昨日から気になっていた事を聞いてみる。
「あのさ、友達は俺の事知ってるの?」
俺の事とはつまり、中学の時ヲタクでぼっちで学年どころか学校中から避けられていた事だ。
高校ではまだそこまでではなく、いつも一人で居る暗い奴という認識だろう。
この間まで同じ中学に通っていた妹の友達が俺の存在を知っている可能性はあるが、今回俺に協力する事で終業式の時の妹の様に周りから虐められたりしないか心配なのだ。
そんな心配をしていると
「知ってるよ。勿論私のお兄ちゃんって事も知ってるから!」
「そうか。 大丈夫なのか?」
虐められたりしてないかという意味を込めて聞くと
「大丈夫だよ! それどころかお兄ちゃんに対してそんなに嫌なイメージは持ってないと思う」
「マジで?」
「うん。私が色々補助してたからね」
「そうか。 悪いな」
中学で俺に対して悪いイメージを持ってないなんて奇跡的だと思う。
人は誰でも空気という物を読む。
その空気を読んで行動する人が多数だろう。
そして俺が在学していた時の中学の空気は『佐藤友也=悪』という方程式が成り立っていた。
なので俺に味方したりすると『空気の読めない奴=悪』という方程式に組み込まれ、俺と同じように『悪』として扱われてしまうのだ。
だからこそ妹の友達が俺に悪いイメージを持っていないという事にビックリした。
しかしそれは、柚希が『佐藤友也=悪』ではないと影ながらサポートしていてくれたおかげらしい。
俺は今後、柚希に頭が上がらなそうだ。
既に上がらなくなっている事には触れないでおこう。
柚希に心から感謝していると
ピンポーン
と、家のチャイムがなった。
それと同時に俺の心拍数も跳ね上がる。
柚希は「はーい」と返事をして玄関に出迎えに行った。
しばらく玄関で話していたが
「おじゃましまーす!」
という声が聞こえ、足音が近づいてくる。
足音がリビングの扉の前でとまり
「どうぞー」
という柚希の声と共にリビングの扉が開いた。
高鳴る心拍とともに扉に注目する。
すると
「おじゃましまーす」
と、友達が入って来た。
身長は柚希と同じ位で160前後だろうか。
髪は肩口位の黒髪のセミロング。 目はクリっとしているが何処か眠たそうな感じのする目をしている。化粧もほぼしていないんじゃないかという位のナチュラルメイクなのだが、何処か大人っぽさがある。
デニムの膝上までのスカートと白いシャツに薄緑色のブラウスを羽織っている。
そしてどうしても目が行って今うのが胸。
大きい。 シャツがはち切れんばかりに双丘に押し上げられている。
これでこの間まで中学生だったのか……、ゴクリッ。
と、色々考えていると
「こ、こんにちは。ゆずと同じクラスの
し、しまった! 変な事考えている内に先手を取られてしまった!
俺は慌てて返事をしようとして、柚希の言葉を思い出す。
自分に自信を持たなければ!
「こんにちは。初めまして柚希の兄の友也です」
何とか噛まずに言えた事に安堵していると
「え? ええ? えっと、お兄さんですか?」
と、おかしな反応をされてしまった。
何か失敗したかな? と思いながらも
「うん。正真正銘の柚希の兄貴。学校で見た事ない? 有名だったとおもうんだけどなぁ」
と、自虐も混ぜて軽い感じで返すと
「ええええぇぇぇぇ?! ち、ちょっとゆず!こっち来て!」
と、なんと解釈していいか分からないリアクションと共に柚希に助けを求める。
やっぱり俺には難易度高かったかぁ。と思っていると、キッチンで飲み物の準備をしていた柚希がお盆にジュースとお菓子を乗せてリビングにやって来る。
「どうしたのめぐ?」
と、お盆をテーブルに置きながら訪ねる。
すると染谷さんは柚希を引っ張ってリビングから出て行ってしまった。
俺はそれを呆然と見送り、自己嫌悪に陥っていた。
あああぁぁぁぁぁ!! やってしまった! あんなの全然俺のキャラじゃないのに! どうしよう? 気持ち悪いって思われたよな! 今まで柚希がサポートしていてくれていたのが今ので全部パーになってしまう。せっかく数少ない悪いイメージを持っていない子だったのに。どうする? 今から謝りに行こうか?
と考えていると、リビングの扉が再び開き染谷さんがおずおずといった感じで入って来て
「取り乱してすみませんでした!?」
と全力で謝られた。
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