3.失踪と兆候
レミエルとアルバートのマグナの改修が終わり、下宿に戻ってきたのは丁度昼ごろだった。
下宿の建物前に、サンディさんが立っていた。サンディさんが無言で俺を見つめてくる。
「さ、サンディさん……?」
なんだろう、俺また何か誤解されてる?
「あら、ルクト君。いつの間に帰ってきたの?」
サンディさんは急に不思議そうな表情に変わり、そんなことを聞いてくる。
「え、いや、今さっき……。」
「あら、そう? 気が付かなかったわ。」
サンディさんの言葉も表情も、嘘を言っている風ではない。
「お昼ご飯まだでしょ? 準備するわね。」
そう言いながら、サンディさんは下宿の中に向かいかけたところで足を止める。
「そうそう、そういえばレインちゃん。今日まだ起きてこないんだけど、何か知ってる?」
「え?」
昨日は普通に早起きしてサンディさんのお手伝いをしていた。だから今日も勝手にそうだと思っていた。朝確かに見かけなかったが……。
「ちょっと様子見てきますよ。」
サンディさんは「お願いね」と言いつつ中へと戻っていく。
俺も下宿の玄関から入り、2階にあるレインの部屋へと向かう。
レインの部屋の扉前に立ち、ノックする。
……。反応が無い。
「レイン、大丈夫か?」
再度ノックしつつ、声をかけてみる。
やはり反応がない。もしかして体の具合が悪いのか?
「具合が悪いなら、俺がチェックしてみるけど……。」
相変わらず反応が無い。
試しにドアノブを回してみる。扉に鍵はかかっていない。
「入るぞー」
声をかけ中へと入る。
あまり何度も入ったことがあるわけじゃない。が、そこには何もないことが分かった。
「レイン……?」
多くない私物も全てなくなり、俺が作った装備も無い。
「まさか……!」
俺は焦って自分の部屋へと入り、そこでコートに擬態したパワードアーマーを装着しつつ窓から飛び出す。
即浮上し王都上空から見渡す。
「くそっ! いつからだ! いつ居なくなった!!」
「何も言わずにいなくなるなんて!! せめて理由ぐらいっ!!」
俺は闇雲に王都上空を飛び回る。
道行く人々に変な顔をされてもお構いなしに、俺は低空飛行しつつ、歩行者の顔を次々とスキャンし、レインを探し回る。
「どういうことだ。位置情報サービスでもわからないって、どういうことだ!?」
焦って考えがまとまらない。
考え込む俺に住民の視線が刺さる。
「なんなんだよ!!」
住民たちが俺をじっと見ている。
それでも俺は飛び回り、レインを探す。なぜか妙に注目を集めている。声をかけてくるわけではない。何かの敵意というわけでもない。ただじっと見られるだけだ。
「だめだ!! やっぱり位置情報が取れない! 位置情報が取れない……?」
良く考えろ。位置情報が取れない時はどんな時か。
「大きな建物の中か、地下……、地下!!」
王都北部の貧民街。そこに口を開けている地下道の入り口までやってきた。
「地下に居るなら、位置が取得できない可能性が高い。」
薄暗い地下道へ、俺は静かに入っていく。
フィーデと戦った時と、それほど変わっている様子はない。
確かフィーデ達は、この通路先の広場に隠れ住んでいたはず……。通路の先は真っ暗だ。誰も居ないか……?
俺は通路を抜け、広場に入る。静かに暗闇の中を見回す。そこには誰も……っ!?
暗がりの中、中空を見つめたまま静止しているレインがそこにはいた。
「……、レイン?」
俺はレインに呼びかけてみる。
すると、どこか中空を見ていた視線が俺に合う。
「っ!」
途端にレインは広場奥に向けて逃げ出した。
「レイン!!」
レインは目線程度の高さを飛行し、逃げていく。俺も同じく飛行して追う。
「待ってくれ!! 一体どうしたんだ!!」
「コースケ、私と一緒に居てはダメです!!」
レインはそう言いながら、また壁にぶつかっている。このまま追いかけっこしていてはお互いに危ない。
「仕方ない、
視界がグレースケールへと変わり、全ての動きがスローになる。
俺はレインの前に回りこみ、できるだけやさしく肩を持ち、動きを止める。
「っ!! お願いです、コースケ。行かせてください!!」
「レイン! せめて話を!! 理由を聞かせてくれ。」
ガサッ
物音がした方向へ二人で一斉に振り向く。
「……ぉぁ?」
暗がりの中に浮浪者らしき男が座り込んでいた。
「な、なんだおめぇら……、」
「あー、騒がしてすまない。すぐに立ち去るので──、」
──みつけた
「?」
何かの声? 空耳か?
「みつけた」
先ほどまで座り込んでいた浮浪者は立ち上がり、こちらをじっと見てくる。
「っ!」
レインは弾かれたように逃げ出す。俺も反射的に後を追った。
「なんだ、どういうことだ!?」
地下道のあちこちから多数の足音が聞こえる。かなりの人数が動き回っているようだ。
レインは地下道の分かれ道であっちへ行ったり、こっちへ行ったりと、右往左往している。
「みつけた」
進もうとした先、一人の男が立っている。先ほどの浮浪者とは別の男だ……。
「みつけた」「みつけた」「みつけた」
いや、一人じゃない。その後ろに何人も……。
「あぁ!!」
レインが悲痛な声を上げる。
「レイン、脱出するぞ!」
俺は天井に向けて
数十の目が一斉に俺たちを見る。
「なっ!」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
──みつけたぞ
老若男女問わず、何十人もの人間が、俺たちをじっと見つめ、つぶやく。
「ごめんなさい、ごめんなさい、コースケ、巻き込んでしまった……。」
彼らは一斉に俺たちに向け飛び掛ってくる。
「多勢に無勢だが!」
俺は
「あぁ! ダメです!!」
レインが両手で俺の手を押さえ、それを止める。中途半端な威力の
彼らの一人に命中し、あっさりと吹っ飛んでいく。
「えっ?」
予想以上に軽い手ごたえ。もしかして……、
「本当にただの住民?」
「私たちが攻撃しては、殺してしまいます……。」
元はただの住民。その彼らが何十人も俺たちに襲い掛かってくる。
「に、逃げるぞ!!」
「コースケ! 奴らの狙いは私です。私を置いて──」
レインは俺を突き放して一人で行こうとする。
「理由が何であろうと、一人で行かせない!!」
俺はレインを抱えて一気に浮上。どんどんと高度を上げる。
さすがに空までは襲ってこれまい。
「ここなら大丈夫だろう……、それで、これは一体──」
「コースケ!!」
レインの声で俺は咄嗟に横へと飛びのく。
そこへ何かの影が通過し、その後に猛烈な暴風が吹き荒れる。
「うぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!!」
俺はレインを抱きつつ、風にあおられて錐揉みする。
風に翻弄される俺たちを、巨大な猛禽が睥睨していた。
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スペックシート:ルクト・コープ(識名 孝介)
氏名:ルクト・コープ(
性別:男
年齢:16
タイプ:中近距離戦
装備:
・PEバッテリー
高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。
無線給電によりエネルギー量は自然回復する。
・義手義足
チタン合金による骨格、人工筋繊維による作動、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。
【
・圧縮格納μファージ
機能を停止し、体積圧縮されたμファージ。体内や義手義足の余剰スペースに格納保存されている。
そのままでは使用できない。使用する場合には解凍展開、機能の再起動を行う必要がある。
展開すると黒い粘液体で広がる。展開状態であれば装備の設計変更、再構築など、様々な用途に使用可能。
・パワードアーマー4
チタン合金外骨格、内部に人工筋繊維によるパワーアシストシステムを搭載した全身鎧。
頭部もフルフェイスでカバーするため、外からは顔が見えない(中からは各種センサで外の様子がわかる)
全身の各部位に簡易式フィールド発生器を搭載し、そこから放出したウィラクトにより残像のような現象を発生させる。
・
使用時は展開し、対象の身体に輪っかを取り付ける。取り付け部位から
戦技兵器の使用は不可能になる。
ハーヴァシター卿拘束のために孝介が制作した。ハーヴァシター卿は両手、両足、腰、首、頭と、全部で7か所に
取り付けして初めて無力化された。
効果は高いがそれほどの強度は無いため、破損には注意。
・麻の上下
住民がよく着ている一般的な服装。
諸元:
・PEバッテリー
容量:3000kWh、最大出力:500kW、最大蓄積能力:300kW
・フィールド発生器×4(両手両足の義手)
最大出力:72kW(推力:1600N)(4基合計)
技能:
・飛行
・
ウィラクトによる衝撃波。近距離用であるため、射程は数十cm。
・
ウィラクトによる衝撃波。高収束による遠距離用。射程は数m。
スラストタイプは距離で威力が減衰するため、攻撃力は
・
連射式の
・
ウィラクトで手足のアーマーを強化し、攻撃力を上げる。射程は手足の届く範囲。
威力は
・
フィールド発生器の圧縮器内圧を限界まで引き上げ、威力を増した
収束することができないため、接近して放つ必要がある。粒子圧縮器が過重に耐えられず
1回で破損する。威力は
・
ディール粒子かく乱により思考混乱。一時的な全身麻痺を起こす
相手の頭部付近に直接触れる必要がある。
・
思考領域の一部に自立稼働プログラムを埋め込む。そのプログラムは継続的に思考攪乱を発生させ、全身麻痺を誘発する。
従来の思考攪乱では効果の薄い相手への対策として考案したシステム。
使用には相手の頭部付近に直接触れる必要がある。
・
思念波を球状に展開し、防御用の障壁を生成する。物理的攻撃や思念力攻撃を防ぐことができる。
・
各種リミッターの解除(飛行機能、パワーアシスト機能など)と、思考加速を用いることで、稼働速度域を数段上げることができる。
使用時間はシステム上の制限は存在しないが、PEバッテリーの消耗や生体部分への負担を考えると3分程度が最適。
・
全身の簡易式フィールド発生器から放出されるウィラクトで、自身の残像体を発生させる。
体の一部だけ、もしくは全身の残像を発生させることができる。
残像体はウィラクトの塊であるため、攻撃として使用することが可能。ただし攻撃すると消滅する。
・
お互いの効果を増幅させた攻撃。それぞれ単発で行った場合の攻撃に比べ数倍の威力がある。
・
お互いの効果を増幅させた攻撃。それぞれ単発で行った場合の攻撃に比べ数倍の威力がある。
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