第454話華音VS日本トップクラスの猛者(5)

華音が姿を消した警察庁の道場では、異様な雰囲気に包まれている。

一対一で立ち会った日本トップクラスの選手二人、そして集団で華音に迫った選手が、茫然自失となり、下を向くばかりになっている。


柳生霧冬は、厳しい顔。

「いいか、お前ら」

「華音は、あれで本気を出しとらん」

「華音が本気で蹴れば、顎の骨は砕ける」

「本気で殴れば、骨を破り、臓腑を突き抜ける」

「本気で掴めば、掴んだ骨が粉々になる」

「俺は、その訓練を華音に施した」

「それも、小学校に上がる前から、毎日朝1時間半、奈良の山中で」

「動く速さも、わかるだろう」

「あれは狼30匹に囲まれても、怪我一つ負わないで、全部倒す」

「それだけの速さと力を持つ」

「だから、お前らの中で見切れたものは、一人もいない」


潮崎師匠も、柳生霧冬の隣に立った。

「そんな華音は、お前らを倒した」

「しかし、自分の身体をよく見ろ」

「一人でも怪我をしたものがいるか」


潮崎師匠の言葉で、選手全員が自分の身体を確認、首を横に振る。


潮崎師匠は、選手たちの驚く顔を見て、呆れた。

「だから、手加減されたんだ」

「怪我をさせないと言った約束通りにな」


ますますうなだれる選手たちに、柳生隆が声をかける。

「今日は華音の実力を確認してもらっただけ」

「もう、実力を疑う選手はいないだろうけれど」

選手全員が頷く中で、柳生隆は、その口調を和らげる。

「華音は、倒してしまうまでは厳しい」

「その後、いつも、やり過ぎたと、反省をする」

「おそらく、今頃は反省して落ち込んでいる」


まだ意味がわからない選手たちに、柳生霧冬。

「難しいことはない」

「今度、華音の顔を見たら、恐れないでやって欲しい」

「道場の友として、普通に声をかけて欲しい」


潮崎師匠が話をまとめた。

「つまり、仲間や」

「敵にはしないほうがいい」

その潮崎師匠の言葉で、選手全員が頷いている。



さて、華音は松田明美に身体を抱えられながら、その顔は哀しそうなまま。

松田明美は、華音を強く抱く。

「華音ちゃん、そこまで嫌だったの?」


華音は、すぐには答えない。

それでも、ポツポツと話す。

「道場に入った時に、選手全員を見て」

「大体の実力は、見て取れた」

「霧冬先生とか、潮崎師匠のほうが強いよ」

「そんな選手と立ち会っても、面白くないし、本気も出せない」

「霧冬先生も潮崎師匠も隆さんも、それをわかっていたはず」

「本気を出さない、手加減した実戦なんて、何も面白くないし」

「僕の実力確認もいいけれど、なんか、見世物だった」

「結局、化け物みたいに思われて」

「怖がった顔で見られて」

「・・・だから、格闘は嫌い」


松田明美は、華音の手を握った。

「ごめんね、華音君」

「嫌なことをさせてしまって」


華音の表情は変わらない。

「もう・・・嫌・・・」

「どこかに消えたいくらい」

華音は、松田明美から、身体も手も、離してしまった。

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