第412話浅草歩きは、様々な波紋を呼ぶようだ。

雨宮瞳は、浮き浮きとした顔で帰宅した。


その瞳に、母好子が声をかける。

「ねえ、瞳、文学研究会の初日で、いいことがあったの?」

「しっかり挨拶できたの?」


瞳は、うれしくてたまらないので、華音のテニスのことやら、文学研究会であったことを、「かくかくしかじか」と言う。


好子は、笑いだした。

「そうかあ、さすが華音ちゃんだねえ」

「誰にも角が立たないようにしたんだ」

「しかも甘ったれな瞳にも、気配りを更に」


瞳は、「何、その甘ったれって」と思うけれど、好子は笑うのみ。

また話題も変わる。


「へえ、浅草にねえ、面白いね」

「ここからだと渋谷まで出て、銀座線かなあ」

「いも羊羹とか、雷おこし、揚げ饅頭、焼き立ての御煎餅」

「佃煮の名店もあったかなあ」


とにかく浅草の食べ物を連発するので、瞳は少々面倒。

「お母さん、食べ物の話ばかり」

「食べる店も決まっているしさ」

「それより、寄席に入るから古典落語の本を読むの」

「古今亭志ん生って人の」


しかし、好子は、そんな瞳の面倒顔を鼻で笑う。

「あのさ、今言った食べ物は、お土産で欲しいだけ」


そして、アドバイス。

「それとね、瞳」

「志ん生師匠の本を読むんだったら、動画サイトにもあるから、それも見なさい」

「なかなか、味があって面白いよ」


瞳は、「はぁ・・・ありがと」と、自分の部屋に入っていく。



さて、瞳と母好子は、そんな会話だったけれど、華音はお屋敷に戻って面倒に巻き込まれている。


まずはシルビア

「何だって?部活動として浅草で遊ぶ?」

「老舗グルメツアーをして、寄席に?」

春香

「そうなん?うちらはホッタラカシってこと?」

「あれほど文化祭に協力したのに、一言もお誘いがないと」

エレーナはブスっとなる。

「私、華音ちゃんと一度も二人きりでデートしていないよ」

「華音ちゃんって、どうして意地悪なの?」


三人の不機嫌なお姉さまたちを見て、華音は懸命に抗弁する。

「僕の学園の文学研究会の活動なの」

「僕は部長ではないし、ここの3人を連れていく判断はできない」

「それに、浅草って混んでいるし、老舗に入るとしても、こんなゾロゾロとしても仕方ない」

「絶対に誰かが迷子になるもの」


しかし、華音の抗弁は効果が無い。


シルビア

「江戸前の天ぷらが食べたい」

春香

「そうやね、ごま油のね、くどいけれど病みつきになる」

エレーナ

「池波正太郎さんの紹介した店にも入りたいなあと」


華音は、ここで思った。

「結局、このお姉さまたちは、偶然を装って合流して来る」

「どうして素直に一緒に行きたいって言えないのかな」

「僕が意地悪でなくて、この人たちが意地悪お姉さま三人衆だ」

「はぁ・・・実に面倒・・・」

華音は結局、頭を抱えている。

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