第383話華音のパンク それぞれの想い(1)

立花管理人が柳生事務所に連絡したようだ。

華音の屋敷に、柳生清、息子の柳生隆、そして松田スタッフが入って来た。

尚、松田スタッフは松田明美の実の姉になる。


松田スタッフが、妹の明美を叱った。

「明美、何てことをしてくれたの?」

「何でそんなことを言ったの?」

「まるで嫌々ながら、私たちが華音君の警護をしているみたいじゃない!」


柳生隆も厳しい顔。

「俺たちも、どれほど華音に助けられたかわからない」

「迷惑どころか、メンバーの一員と考えている」

「吉祥寺駅爆破未遂事件もそう」

「永田町と鎌倉暴走族の始末、そして渋谷のハロウィンの時だって」

「華音がいなかったら、恐ろしいほど被害は拡大した」

「それから比べれば、文化祭の女子高警備なんて・・・」


柳生清は、じっと考え込む。


立花管理人は、慎重に言葉を選ぶ。

「今は、エレーナが懸命に慰めています」

「とにかく、頑張り過ぎていました」

「今は、癒すしかありません」

「奈良に帰る、万が一ここに残ってくれるにしても」

「あの明るい顔に戻したくて」


柳生清が口を開いた。

「まあ、華音君は頑張り過ぎてきて。たまたま明美の言葉に反応してパンクしたのかもしれない」

「でも、明美は、明美なりに心配して言ったこと」

「確かに源氏の動画は拡散しつつあって、人気は高まるばかり」

「そうすると女子高の文化祭に、華音が出るとの情報が発信されれば、当然見たい聴きたいとの人が、予想がつかないほどの人数となって押し寄せる」

「その中には、不逞な輩もいるし、邪魔をする、華音を狙う馬鹿な奴らも出る」

「その混乱を避けたいと言うのが、公務員でもある明美の立場」

「だから、明美、そんなに自分を責めるな、対処を考えればいいことだ」


ようやくやさしい言葉をかけられた松田明美は、激しく泣きだした。

「華音ちゃんを・・・傷つけちゃったよ」

「私のほうが・・・もっと・・・慎重に言葉を選ぶべきだった・・・」

「大人なのに・・・つい・・・」


今西圭子が松田明美の背中をさする。

「そういう時もあるよ・・・これからを考えようよ」

すると松田明美も、感極まったのか、今西圭子にすがって泣き出してしまう。


シルビアが口を開いた。

「エレーナは、華音を慰めて思いっきり泣かせると思う」

「全てのストレスを、出来るだけ涙で流させて」

春香も続く。

「そのうえで、華音の結論を待とうよ」

「中途半端では、あかん」



さて、自分の家にいた雨宮瞳は、胸に感じたことのない痛みを覚えた。

気になって鏡で見ると、驚いた。


「あれ?胸の呪印が赤黒い?」

「かさぶた?」

「何だろう・・・かさぶたじゃない、でもチクチクする」

「こすっても、血は流れないなあ」


そして、それを母好子に報告。


好子は頷いた。

「立花さんから連絡があった」

「華音君が、とうとうパンクしたみたい」


瞳は意味不明。

「パンクって何?」


好子は呆れ顔。

「この鈍感娘」

「今、華音君の顔は、エレーナちゃんの胸の中にすっぽり」

「それで大泣きになっている」


瞳の表情が変わった。

いきなり、家を飛び出していく。

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