第346話学園文化祭(3)華音のスピーチが始まる。
午前10時、華音のスピーチの時間となった。
華音が直衣姿で演台に立つと、すでに満員の聴衆から大きな拍手と歓声。
「うわーーー!上品!」
「華音君、違和感が無い!」
「口説かれたいなあ・・・お姫様みたいに」
「それ、私も!」
「順番決める?」
など、いろんな反応があるけれど、華音はいつもの通り、冷静な顔。
「それでは、お待たせをいたしました」
「本日は紫の上のお話、お手元の資料に添ってお話をさせていただきます」
と、すんなりとスピーチに入っていく。
「さて、紫の上は、お手元の資料の系図をご確認いただければ、光源氏の永遠の憧れの藤壺更衣の兄の兵部卿の娘、つまり藤壺更衣の姪になります」
「幼くして母と死別、本来は父君の兵部卿の宮に引き取られるはずですが、その正妻による継子苛めを恐れ、北山の祖母の尼に育てられる」
「しかし、その祖母も死んでしまい、いよいよ父の兵部卿の家に引き取られる寸前、光源氏に誘拐同然に自邸の二条院に連れ去られます」
「もちろん、父君の兵部卿の許可も無く、正式な結婚でもありません」
「光源氏としては、藤壺の姪であるということ、そしてよく似ていることから、その身代わりとして、その少女と一緒に暮らしたいと思っただけです」
「つまり、紫の上自身の立場は実に不安定」
「実の母は死に、実の父に引き取られたところで、正妻とその子供たちによる苛めは、目に見えている」
「そうなると、行き場が実はない、光源氏に頼るしかない、そんな不安定な立場の人だったのです」
華音の説明は、最初から丁寧なもの、その丁寧な説明に、全員が巻き込まれていく。
「可愛くて、賢くて素敵な女性とばかり思っていたけれど」
「これは、辛いよね、行き場がないって・・・」
「それでも、光源氏に引き取られて良かったのかなあ、苛められて一生を終わるより・・・」
「でもねえ・・・結局、不義の密通相手の藤壺の身代わり・・・それも苦しい」
華音のスピーチに引き付けられた人たちがささやく中、華音は続ける。
「紫の上は、それでも懸命に努力をしました」
「当代きっての知識人でもあった光源氏の教育」
「もちろん、紫の上自身の聡明さもあって、素晴らしい女性に成長します」
「周囲から正妻格と見られるようになるのですが・・・」
華音はここで、一呼吸を置く。
その華音に全員が注目する。
「紫の上は正妻格ではありましたが、正妻と認められたわけではなく」
「光源氏が例の好き心で、自分より身分の高い女性に近づくたびに疑心暗鬼」
「自分より身分の高い人と光源氏が結婚してしまえば、その時点で正妻でもなんでもない、その後の女三宮の時の事例でわかりますが、住んでいる場所も正妻に譲らなければならない、とにかく身分による差別が厳しい時代で」
「藤壺の身代わりとして、光源氏に見いだされた紫の上は、幸せと不幸を同時に背負う人なのです」
華音は、一心に聞き入る聴衆に、すでに亡くなってしまった正妻葵の上との関係、六条御息所との関係、朧月夜との関係を話し、そして須磨退去と明石の君との話をに移る。
「明石の君との話は、紫の上には、相当ショックでした」
「浮気などしないと約束して、泣く泣く見送った光源氏が愛人を作っていたのですから」
「紫の上が須磨に退去する光源氏を見送ったのは18歳の時」
「光源氏の膨大な財産と使用人、留守中の様々なものを全て預かり、涙ながらに見送り」
「辛い生活をしている夫光源氏に何度も情細やかな手紙を送り、心を尽くした差し入れも行い」
「その結果、光源氏は、現地で愛人が出来たなどと、手紙を書いて来る」
華音の深みのある丁寧なスピーチは続く。
これには生徒はもとより、教師たちも、真剣に聴き入っている。
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