第58話華音と空手部顧問松井 学園長の挑発

華音は、空手部練習場に入り、深くお辞儀。


「先日、転校してまいりました三田華音と申します」

「ご挨拶が遅れまして、御不快な思いをさせてしまいました」

「その点につきましては、心からお詫び申し上げます」

自己紹介と、「挨拶が遅れたことへの謝罪」までを付け加える。


その華音に空手部顧問の松井が声をかけた。

「いやいや、謝ることはないよ」

「全て、こっちの剛の暴走だから」

「わざわざ出向いてくれてありがとう」

逆に、空手部顧問が頭を下げている。


華音が練習場を見回すと、男子部員、女子部員が、ほぼ同数。

総勢で、40名ほどで、華音に注目をしている。


松井顧問が。再び華音に声をかけた。

「華音君は、昨年の中学生剣道日本一」

「かの柳生霧冬先生のお弟子さんとか」


華音が頷くと、松井顧問

「そして合気道も中学日本一」

「空手の経験も少し聞いたけれど・・・どういう経験かな」


華音は、少し頭を下げて、説明する。

「先ほど、明美さんと詩織さんにも、少しお話をしましたけれど」

「あの、徒手格闘全般の指導だったので」

「合気道とか、空手とかの区別はありませんでした」

「合気、空手、柔道、ボクシング、全て、その時の相手に応じて使うだけと」

「・・・軍隊で使うような技術みたいです」


松井顧問は、その華音の説明に興味を持った様子。

「そうなると、いわゆる型とかは?」

「そういう練習もしたの?」


華音は、少し笑い、

「はい、それは教わりました」

と頷き、空手の正拳突きの構えから、左手をスッと伸ばす。


松井顧問は、少し首を傾げた。

「普通の構えと突きなんだけど」

「剣道部の佐野顧問は、素振りだけで、震えたって言っていたなあ」


華音は、また笑った。

「師匠は実戦重視でしたので、型は実戦で使えなければ意味がないと」

そして、今度は華音から声をかけた。

「ここまで来たら、誰か」

つまり、御手合わせをしたいとの意思表示。


空手部顧問松井が、「うん」と頷くと、吉村学園長と保健教師の三井が空手部練習道場に入って来た。


吉村学園長は華音に声をかける。

「華音君は、そのままの学生服でいいよ」

華音は、また笑う。

「はい、徒手格闘の師匠も剣道の師匠と同じでした」

「常時戦場と」


吉村学園長は華音の次に、空手部主将の剛に声をかけた。

「お相手は、最初に因縁をつけた剛君」

「学園長が指名します」


剛が驚いた顔で立ち上がると、次に松井顧問。

「松井顧問も立ち会ってみたら?」


松井顧問も驚くけれど、吉村学園長は笑う。


「大丈夫、華音君は加減できるタイプ」

「それでも心配だから、保健室から三井さんを連れてきたの」


そんな「挑発」めいたことを言われた空手部主将剛と、空手部顧問松井は、顔を真っ赤にしている。

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