【第5話】日常の終わり

「……ということで行ってくれるな?勇者クロノよ」


「……」


「確かに、簡単に頼めることではないことは私も理解しているのじゃ」


 ラマティア大陸で中心として動いているここ、グルノール王国。俺はその宮殿の玉座の間に来ていた。

 こんな一生に一度あるかないかという事態になぜこんなことになったのか、俺は今朝の出来事を思い返していた……。






 今日は1ヶ月に1回開店時間が遅い日なので、昨日の買い忘れたものを買いに行くところだった。今日は町の中心にある、噴水のところがいつもに比べて騒がしい。城の兵士達も数人居て、多くの人々が兵士の前で縦一列に並んでいる。


──何かあったのか?


 何か減るものでもないと思い、並ぶことにした。

 俺の番になり、1人の兵士の前に立つと、その兵士は鎧の下から俺を見てくる。


「……はやく手を出せ。まさか、よくわからずにきたってことはないよな?」


 顔は見えないが、声からしてあまり機嫌が良さそうではない。俺はおそるおそる手を兵士に向けて出す。

 すると兵士は握っていた手からペンダントを渡した。そのペンダントには薄く透明がかった青緑の魔鉱石が埋め込まれている。

 俺の手にのせられると、魔鉱石は光った。

 その光は最初は淡かったが、段々と強くなっていき……

 割れた。

 俺の掌の上で起きた光景を目の当たりにした兵士は、しばらくペンダントを見ていた。が、俺をじっと見て一言言った。


「……来い」


「へ?……あっ…ちょっ!!」


 腕を勢いよく掴み、俺は何処かへ連れて行かれようとしている。俺は抵抗を試みたが、兵士の力はとても強く、びくともしない。


「……よく聞け。お前を、今から王宮へ陛下の所へ連れていく。くれぐれも失礼な態度は取らないようにな」


「あっ……はい」


──王宮?俺が魔鉱石割っちゃったからか……?


 兵士は速度を緩めることなく、速いスピードで王宮へ向かった……。








 それで今に至る。

 王様から聞いた話によると、あの魔鉱石は勇者を導く為に純度が極端に高いものだったらしい。それを割った俺は他の魔鉱石を光らせた数少ない者たちより勇者の素質があると考えられたようだ。


──とんだ迷惑だ。


 確かに勇者とはなかなかなれないものだし、誇りを持つべきだとも、もちろんわかっている。

 でも、俺にも俺の家庭がある。そんな簡単にホイホイと旅に出ようなんて思えるはずがなかった。


「……まぁ大丈夫じゃろ。それでは姫、続きは任せたぞ。わしは勇者誕生の祭りの準備をしてくる」


「はい、お父様。勇者様のことは私におまかせ下さい」


 その声を聞き、国王はうきうきしながら部屋を出ていった。


「それでは、勇者様こちらへ……」


 姫は手招きをし、俺を部屋から出そうとしている。どうやら他の兵士達にはあまり知られたくないらしい。


「わかりました」


 そう一言いい、俺は兵士達が集まっている玉座の間を後にした。

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