【第3話】魔導書

 そして1時間ほど経過したとき、俺は思わず手を止め魔導書をじっと見つめる。


「これは…………」


 そこには俺がずっと探していた事が書かれていた。


「おまたせしました」


 そう言いながら、俺は店に戻った。女性は、俺が魔導書を手にしているのを確認すると、嬉しそうにしている。


「こちらは魔導書の内容を書き写したものです」


 そう言って数枚の紙を差し出すと、女性は少し驚いたような表情をする。


「ありがとうございます。まさかわざわざ書いて頂くとは思いませんでした……」


「いえ、普段はお客様の前で読むのですが、この内容は書いて残しておいたほうが良さそうだったので、僕の勝手な判断で書き写したのですが、問題ありませんか?」


 すると女性はコクリと頷いた。


「それでは代金を頂くところですが全部書き写せなかったので……」


「代金はこれでいいですか?」


 そう言って女性は中くらいの袋を取り出す。恐る恐る中を見ると、大量の金貨が詰まっていた。先輩の方を見ると、女性の後ろで驚きを隠せないでいる。


「こんな量受け取れません……」


「受け取ってください。ちゃんとお礼をしたいんです」


 そっと先輩の方に目をやると、先輩はグッと親指をたてている。


「……それではご厚意感謝します。この代金は大切に使わせていただきます」


 女性はほっとしたような顔をし、一礼をしてから店を出て行こうとする。


「あっ、あの!その本少し貸して頂けませんか!!読んでいて」少し気になる内容があったもので」


「それなら、この魔導書を差し上げます」


「「!?」」


「読めない私が持っているより貴方が読んであげるほうがこのこも喜ぶとおもいますので」


「……ありがとうございます。この恩は絶対に忘れません」


 そう言って俺は女性に深く礼をする。この言葉を聞き、女性は明るい顔で店を出ていった。


「よくやったじゃないかクロ君!それじゃ次のお客さんが来ても頑張るんだぞ!んで……その内容ってなに?」


「内緒です。ってか、なんで俺のお客さん前提なんですか。ちゃんと先輩もやってくださいね」


 この後結局、客は誰1人来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る