閑話

すずらん。

依怙

 いつまでもこの手を離せずにいる。

 離してしまえば、二度と戻らない気がして。

 優しくて、愛しいこの手の温もりをずっと感じていたい。

 それが間違いだとしても、ずっと。


 この感情は愛なのか、はたまた別の何かなのか。

 恋も愛も分からないような私には、その違いを区別する術もなく。

 ただ子供のように、温もりを手放すまいとその手を強く握りしめることしか出来ない。


 今まで不必要だったそれは、いつの間にか大きな存在になっていた。

 手を握ることさえ躊躇していたはずなのに、今では離してしまうことが恐ろしい。

 それほどまでに、大切になってしまった。




 月は今日も綺麗です。

 隣であなたが呟いた。

 その温かい手を、より一層強く握りながら。


 私はきっと、幸せなのだろう。

 死んでしまってもいいくらいには、きっと。

 これが仮に愛でなく、何か別のモノだったとしても。

 大切なものを失うことなくここまで歩いてこられたのだから。


 今はただ、あなたがこの手を繋いでいてくれればそれでいい。

 強く拒まれてしまわない限り、私はこの手を離さないだろう。

 失わないことを願いながら、強く、強く。




 ああ、でも、もし失ってしまったら、私はどうすればいいのだろう。

 その隣に、私以外が並ぶ日が訪れてしまったら、私は。



 わからない。

 けれど、本当にそんな未来があるのなら──。





 ──そんな未来は、いらない。

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