運転士の男(1)
こんな細い雨は嫌いだ。
今はもう同じ路線は走ってないけど、この時期にあの日と同じような雨が降るとどうしても思い出してしまう。
あの時のあの男の目。
大きく見開かれたそれと目が合った気がする。
いや合った、絶対に合った。
遠くからだったのに男の白目の赤い血管まではっきりと見えた。
僕は目を閉じるのと同時にブレーキをかけた。
新人だった僕でも間に合わないのは分かっていた。
目の裏に男の血走った目が焼きついて離れなかった。
眠れない夜が続いた。
夢に男が出てくるんだ。
体重が六キロ落ちたとき、さすがに彼女が心配して僕を大学病院の心療内科に連れて行った。
三分でPTSD心的外傷後ストレスと診断され睡眠薬をもらった。
「人身事故に遭遇した運転士さんで同じような症状に悩まされる方は多いですから」
医者は数ヶ月で自然に治るだろうとあっさりと言った。
その言い方が軽さすぎて信用できないと思った。
だって僕の心はこんなに重いのに。
医者からもらった睡眠薬がなくなるとまた眠れなくなった。
体重減少は止まったが今度は無気力になった。
仕事も休みがちなり別の医者に行った。
心配をかけてはいけないと彼女には黙っていた。
ネットで評判がいい医者は最初の医者に比べて愛想は良かったが言うことは同じだった。
前よりも少し強めの睡眠薬をもらった。
その薬もなくなり、どうせ医者に行っても何も変わらずただ薬を処方してもらうだけだと思うとわざわざ遠くまで行くのが面倒になり、家から一番近いメンタルクリニックに行ってみた。
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