第5話
「やはり炬燵は最高だな、友よ」
「そうだな。約束された勝利の炬燵だ」
「何を言っている?」
リビングの真ん中に鎮座していたのは、もちろん緑色の約立たずな物体なんかではなく、我らの冷え切った心を癒す最高の暖房器具──炬燵だった。
ちなみに今日はクリスマス当日である。何の変哲もない、平和な一日だ。……家から出さえしなければ。
「友よ。君は今日の日を
「喧嘩売ってんのかよ。そういうお前こそキリストの誕生日祝いをしなくていいのか?」
「僕は海外の見知らぬ老人を祝うような趣味はないのでね。……時に、友よ。ずっと気になっていたんだが、この、炬燵上ど真ん中に鎮座している、青蜜柑をピラミッド状に積み上げた物体……これは何なんだい?」
「ああ、それか?」
俺はズルズルと腰を下げ、肩まで炬燵に入ると、首だけ友人の方に向けて気だるげに言った。
「クリスマスツリーだよ。お前の意思も汲んでやったんだ、感謝しろよな……って、何崩してんだ」
「僕とてクリスマスが好きなわけではないのでね。……はん、ひと時の男女の戯れなど実にくだらない」
いつもの全人類を見下したような表情が微妙に出来ていない友人を見ているうちに、とっくにクリスマスの虚しさなんて吹っ切れた筈の俺まで悲しい気分になってきた。
うん、悲しくなんかない筈さ。この世は所詮諸行無常で、男女交際など泡沫の夢邯鄲の枕でしかないのだから……。
「はぁ……。後でココア淹れるよ。お前も飲むか?」
「頂こう」
俺は再び上半身を炬燵から出し、顎を机の上に乗せる。
そして、遠い目をして、言った。
「なぁ」
「なんだい、友よ」
「彼女……欲しいな」
「そうだね、友よ」
聖夜の夜は炬燵と共に更ける。
独り身の男二人で飲むココアは、ほろ苦い味がした。
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