第42話 園長先生

「あらぁ……久しぶりねぇ。大きくなって」

 メチャ笑顔のご婦人がデバネズミ親子に

 手を振ってくれる。全くお変わりない。

「○○ちゃんよね?……元気だった?」

 20年ぶりの再会なのに、まるで園児の時

 のように娘をちゃん付けで呼ぶ園長先生。


「まぁ、きれいな娘さんになって、きゃあ

 うれしい。本当にうれしい」

 園長先生は目尻を下げて娘の左腕をさする。


 もう退職されて10年位になるのではないか?

 園長先生を恩師と慕っているのは何百人?

 

「この子はよく泣いたから、毎日おんぶして

 たわ。同じアパートの子が一緒に帰るって

 言ってくれてねぇ。……なつかしいわ」


 娘は昔話の恥ずかしさから顔を赤らめる。

「本当に先生にはお世話になりました」

 感謝を込めて深く頭を下げるデバネズミ。

 

 入園から1か月しても、私と離れる時に

 大泣きをした娘。2か月しても離れない。

「私、甘やかしすぎたのでしょうか?」

 母親失格のレッテルを自分にはり落ち込む。

「……ずっとお母さんと一緒にいたのよ、

 離れる時に泣くのは当然。愛情かけた証拠」

 園長先生が励ましてくれた。

「幼稚園時代に親と離れられない子は、不思議

 な事に高校生まで不登校にならないのよ」

 さらに慰めてくれる。たとえ、真実でないと

 分かっていてもその言葉に救われる。


「記憶力がスゴいね。お母さんとは大違い」

 幼稚園生活を昨日の事のように語る園長先生

 全ての園児とその親に対して、愛情を持って

 接してくれたゆえの記憶力なのかな。


 園長先生は幼稚園に関わる機会として

 ボランティアで絵本の読み聞かせを

 定期的にやるよう招いて下さった。

 園児の想像力、好奇心を掻き立てる

 読み方も教えてくださった。

 子供達のあの目の輝きは忘れない。

 娘も笑顔が増え、泣かなくなった。

 子育ての不安を真剣に聞いて、

 自信を持たせて下さった園長先生。

 デバネズミにとっても恩師です。

 

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