マシンガンな彼女〜Darling, you're daring!!〜
ニル
または手榴弾の福音
燃える、もとい萌えるような恋のシチュエーションとはなんだろうか。
身分違い、は王道だろう。貴族と平民、金持ちと貧乏人、王族とそれに使えるものなんかはフィクション、ノンフィクションともども人々を夢中にさせてきた恋の障壁だ。平々凡々な若い娘が白馬の王子様に見初められる、なんて話もまあ、障壁というにはぬるいが身分違いの恋といえる。
人種違い、はどうだろう。あまり聞かないが、互いにいがみ合い差別が横行する世界において、敵視し合うべき人間に惹かれ合うというのはなんとも切なく美しく、真実の愛が試されそうで、非常に応援したくなる恋だろう。
年の差。最近はあまり珍しいことではなくなってきたが、年齢の違いも大きな障壁となりうる。現実だとうっかり法に触れかねない年齢×年齢のフィクションに胸をときめかせてしまうのも、そういったシチュエーションがふたりの関係性の危うい魅力をより引立てるからかもしれない。
種族違い。これはファンタジーな創作物で非常に良く見かける。もはや人ですらない異種族との恋愛をするにあたって、ふたりを隔てる壁は身分や人種よりも大きいかもしれない。だからこそ人は燃え、萌えるのだろう。余談だが、ホニャララだったりゴニョゴニョだったり(察してください)するのも相当にハードルが高そうである。だからこそ人は燃(以下略)。
上記以外にも、恋愛によく投入される一種のスパイスとしての「違い」は様々だ。中には創作物の中でしかお目にかかれないような「違い」もあるが、我々が生きる現実世界においても恋するふたりを分かつ「違い」というのは、客観的な深刻さに差はあれど数多く存在する。そんな「違い」に人々は悩み、苦悩し、挑戦し、そして結ばれ愛を確かめ合うことで、互いへの気持ちを唯一無二のものへと昇華させてゆく。それが燃え、萌える恋愛のセオリーではないだろうか。
前置きが長くなってしまったが、彼らにはそんな違いはない。ふたりとも中流家庭で育ち、生まれ故郷も同じ。職場の同僚で、年齢差もそれほどない。人種も同じだが、そもそも互いに人種でいがみ合うような古い人間ではない。信仰、民族も然り、である。念のため付け加えると、剣も魔法もSFもすこしふしぎも存在しない、物理が支配する現実世界の地球人である。
「ねえ、ちょっといいかな?」
では、彼らが乗り越えるべき障壁、彼らの間にある「違い」とは何か。
「え!? ごめんなんて!? 聞こえない!」
「ちょっとー! 聞いて欲しいことがー!!」
すぐそばを銃弾がかすめていった。堀に身を隠したレオは散弾銃を再装填しつつ、隣で土ぼこりにまみれた顔を赤らめるシスカを一瞬だけ見やる。見やっただけで、かまっている余裕というか暇はない。
「もう、こっち向いてってば!」
「わ、ちょ危なっ! 頭吹っ飛ぶぞ!」
慌てて銃口をあさっての方向に逸らすレオ。仕方なくシスカに向き合うと、彼女は満足そうに笑ったあと、すぐにもじもじし始めた。
「あ、あのね、これ…あなたのために作ったの!」
胸ポケットから取り出したそれはロザリオ。ああ、彼女は確かそこそこ敬虔な信仰心を持っていたんだっけ。自分はあまりそのへんは無頓着だったから、もらったところで気休め程度のお守りとしてしか扱えないなあ、ちょっと申し訳ないなあ。そこまで一瞬で思考し、レオは我に返った。爆音に巻き上げられた砂が、こちらに降りかかってきたのだ。まあそれはいい。戦場なのだから当然だ。今問題なのは。
「えっ今!? 今じゃなくてよくない!? 今じゃなくない!?」
ちゃっかりロザリオは受け取って自らの胸ポケットにしまいつつも、目の前で盛大に照れるシスカに信じられないと声を張り上げた。
対して当の彼女は、まだにやけきった笑顔である。
「なんだかはずかしくて…思っていたよりも不格好だし。ほんとはもっと早く渡したかったんだけど」
「ほんとだよ、せめて任務前だわ」
「タイミング逃しちゃって…」
「だからってこのタイミングはさすがに控えてくれ、っと!」
会話が途切れた一瞬に、二人して身を乗り出し敵を散らす。
肩にチリ、と痛みが走る。レオは自身の肩を見た。かすり傷のようだ、問題ない。ふたたびしゃがみこむと、シスカがその真新しい傷付近を指先でなぞった。
「浅いわね。あたしのお守りが早々に役立ったのかしら?」
悪戯っぽく笑うシスカは、年齢よりも幼く、レオはそのあどけなさに思わずかっと顔に熱が集まるのを感じた。
「あっ照れてるぅ」
「照れてない」
「嘘つき」
「嘘つきじゃない」
「じゃああたしのこと好き? 嘘つきじゃないなら言えるでしょ?」
「う、うるさ…」
「ほんとうるせえわ! ここ戦場だぞ仕事しろ!!」
どこからか堪えきれないといった風な怒声が聞こえ、レオは気づいた。そういえば周囲には、所狭しと同僚上官後輩がいた。冗談じゃなく、皆がレオとシスカを殺しかねない形相をしている。
シスカのペースに飲まれた自分を恥じるレオの傍から、いつの間にかシスカがいなくなっていた。と思えば、すぐに銃弾飛び交う中、腰を低くして帰ってきた。
「仕事が終わればいいんでしょ、まったく!」
彼女がイースターエッグよろしく大事に抱えてきたのは。
「うおばか待っ…早く投げろ!!!」
近くにいた同僚たちも必死になってそれを放り、耳を塞ぎ屈み込む。一秒もしないのではないかというタイミングで轟音、火の粉と煙がレオたちの頭上を支配した。
「またふたりで生き残れたね」
場違いに甘い声音に、レオは場違いだと思いつつも胸が跳ねてしまった。
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