6月9日 土曜日

第19話 二階堂と石動

◆サーニャ◆


私が悪魔の王になりたい理由は私が一番偉くありたいからだ。

無数にいる悪魔のトップ、王に君臨したいとなんとなく思った。

悪魔が王になりたい理由なんてどの悪魔もこんな物だ。


この儀式の勝敗はかなり人間に左右されるため相手を選ぶときはかなり吟味した。

そして、二階堂薫を選んだのは一番『想い』がわかりやすかったからだ。

恋人を失った悲しみも伝わってきたがこれはあまりわからない。

しかし、恋人を殺した人間に復讐したいという殺意。

これは私にはよくわかった。

別に、私が同じような体験をしたわけではないが、むかつくからそいつを殺したいという気持ちは


――悪魔的でわかりやすかった。


しかし、薫はその『想い』を閉じ込めていた。

薫は酒を飲みその『想い』を忘れようとしていた。

なぜ、自分から閉じ込めるのか。

そんなに強い『想い』なら放ってしまえばよい。

そんなに苦しいなら放ってしまえばよい。


だから、私はこの男を選んだ。


薫は会った時よりも生き生きしている。


◆二階堂 薫◆


「6人揃ったわ」


サーニャは言った。


「なんだ、わかんのか」


「なんとなくわかるのよ」


「残り人数とかもわかんのか」


「多分ね」


「減ってんのか?」


「いいえ、まだ全員ぴんぴんしてるわね」


正直、勝手に減ってくれるのが楽ではあるが、そう上手くはいかないらしい。


「ところで薫は何をみてるのよ?」


「あぁ。 スマホでニュースをみてた」


「例の殺人鬼?」


「また被害者が出た。 ナイフで刺殺。 まだ石動と決まったわけじゃないが、多分同一犯だろうってよ」


正直妙だ。

石動は3人目を殺した時点で指名手配されたにも関わらずまた東京で人を殺している。

普通逃げるもんじゃないのか?

なぜここまで強気なんだろうか。

まあなんにせよ捕まれば、あとは機を見てぶっ殺すだけだ。

覆面なんかをして刑務所を『大熊グリズリー』でぶち破り、石動を見つけて殺す。

ずさんでテキトーな計画ではあるが、これを完遂できるほどの力が俺にはある。

目撃はされるが、人間には捕まえることはできないし、凶器も謎。

ダイナミックな完全犯罪となる。


「よしそろそろ行くか」


「わかったわ」


今は午前11時。

契約者を探す時間はまだたっぷりある。

昨日の段階で傷は完治していた。

そして、昨日も契約者を探し回ったが特に何も得るものはなかった。

積極的に動いていこう。


◆石動 通◆


「あぁ、お前に出会えてよかった」


潜伏している廃墟にて、しみじみと思った。


「俺もだ、いやぁ昨日殺した女も良い声で鳴いてたなぁ!」


「アークマイン。 お前は趣味わりぃよ」


「あ? あの良さがわかんねぇのか?」


「殺すときピーピー泣かれてもうるせぇだけだろうが、俺が楽しいのはだ」


「てめぇのが趣味悪ぃよ」


俺は殺人を続けていた。

この『毒蛇ヴァイパー』がすこぶる便利だ。

こいつがあれば、殺人を続けることもできるし、警察に捕まることもないだろう。


「てかよ、通。 お前は他の契約者を探さないのか?」


「あぁ、そうだな。 俺にも叶えたい願いはある」


「そーなのか? どんなだ?」


「それは――」


ブーブーとスマホが鳴りメールが来ているようだった。

相手は小4になる娘――石動唯――からだ。

俺には娘がいる。

唯は嫁のほうの実家に指名手配される前に預けた。

唯には爺ちゃん、ばあちゃんには秘密にするように言って連絡先を渡している。


メールの内容は

「パパ早く会いたい」だ。


「血も涙もない殺人鬼かと思えば、娘とメールかぁ?」


「あぁ。 娘は大切なんだ。 本当に」


「お前のぶっ殺してる女みたいに10年経てばなるぜぇ?」


「ならねぇよ。 殺してんのはの女だ。 娘は10年経っても娘だろうが」


「はっはっはっは!! クズだな!! さいっこーだ!!」


「そうか? 娘を大切にするのは人間として正しいと思うが」


「……てかよぉ、スマホって逆探知とかされんじゃねぇの?」


「テキトーにパクったやつだから問題ない」


契約者ね……。

全員殺せば願いが叶うという。

叶えたい願いはあるが、とりあえず娘の顔を見たい。

もう娘と離れてから1週間は経つ。

さてどうやって会うかな。


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