第5話 パンドラの娘

 自分で終わらせられない物語を紡ぐのは無責任だ。

 その物語の結末(注1)を他者に放棄し、自らは責任を負おうとしない。

(注1:他者に「解釈」を委ねることと「結末」を放棄することには明確な違いがある。)


「それではやっていることが、まるで前世紀の科学者と一緒ですね」

 私の講義では十中八九最前列に陣取る彼女が呟いた。


「物語も技術も人間が生み出すものという点では同じだからね」

「母にも聞かせてあげたい」


 彼女の呟きについて私が反応したことに気づいているのか、いないのか。

 彼女は皮肉げな笑みを浮かべてそう続けた。


「ほう、お母さんに?」


 彼女は笑みを浮かべたまま顔を上げた。

 その目は真っ直ぐに私の瞳を捉えている。


「はい。逢沢藍香教授に」


 その名を聞いて私はわずかの間、言葉を失った。


「君は、逢沢の娘……?」


「はい。あたし、逢沢あおと言います。あたし、です」

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