第七話「門前の不審者」
学校の帰りも俺ははいつもアニエスと一緒であった。
振り返ってみると、最近一人でいる時間はほとんどないことに気付く。
度を過ぎた過保護っぷりである。
「アリス、明日は何か予定ある?」
隣を歩くアニエスが問いかけてくる。
「いえ、何もありませんけど」
「そう、よかった! なら――」
嬉しそうに微笑むと何かを言いかけるが、唐突に言葉を止め、同時に歩いてた足も止まる。
アニエスの顔が行く先に向けられ固まっていた。
怪訝に思い、俺も目をやると道の角に人影が見えた。
その人物は角の先を時折、覗き込むように窺っている。
角の先は俺達が暮らしている寮。
肌寒い季節は過ぎているにもかかわらずコートに身を包み、頭をすっぽりと覆う帽子を被っている。
身長は高く体つきから男であることは推測できた。
間違いない、不審者だ。
俺は断定した。
どうやって入ってきたのか、そもそも学校の敷地内に生徒以外だと学校関係者しか基本立ち入りを許されていない。
視線の先にいる不審者は学校関係者……という線はないだろう。
挙動が怪しすぎる。
どうしよう、学校の先生に知らせるべきかとアニエスはアイコンタクトで相談していると、不審者がこちらに気付いた。
咄嗟にアニエスが俺を背中に隠す位置に移動する。
警戒し、不審者を睨みつける。
一方俺達に気付いた不審者は、軽快な足取りで近づいてきた。
「いや、良かった! どれも似たような建物だから不安だったぜ」
軽い感じ。
声をかけてくる。
その聞き覚えがある声で、俺は不審者の正体に気付く。
「アレク?」
「おう」
正解であった。
俺の声に反応し帽子をとった姿は間違えようがない。
獣人族の特徴的な耳が頭から覗く。
それは俺にとって馴染みのある顔であり、胸を撫でおろす。
しかし、アニエスにとっては知らぬ顔。
警戒し、アレクを睨みつけていた。
「めっちゃ睨まれてるな……。
そう警戒しなさんな、お姫様」
「私のことしってるの?」
「そりゃ王国のお姫様の顔くらい知ってるさ」
アレクは肩をすくめながら答える。
「アニエス姉さん、大丈夫。アレクは知り合いだから」
「アリスの知り合い?」
アニエスの問いに一瞬どう答えたものか考える。
本当のことをいうならば、勇者として一緒に旅した仲間。
言えるはずがないので却下。
無難な案としては、勇者と共に助けてもらった恩人。
ただ、助けてもらった直後から眠ったままになっていたという設定のため、嘘に綻びが生じる恐れがある。
「勇者の仲間」
結局、アニエスの問いの答えにはなってないが「勇者の」を強調することで細かい説明は省くことにした。
俺の答えは予想外だったのか、アニエスは驚き大きく見開く。
「勇者様の……?」
「はじめまして、お姫様。
俺の名はアレク・ノヴァ。
こんななりだが、一応勇者のお仲間だ。
ガエルにも世話になった」
「は、はじめまして」
アニエスは表情を改めると、スカートをちょこんと掴み貴族らしい礼で答えた。
「でも勇者様の仲間であるアレク様がどうしてこちらに?」
改めてアニエスは疑問を投げかける。
「あー、アリスちゃんを訪ねて来たんだ」
耳をかきながらアレクは答える。
「アリスを?」
ますますアニエスの疑問は深まる。
勇者の仲間であるアレクがわざわざ俺を訪ねてくる用事とは一体何事なのか。
このまま二人の会話を放置していると、色々と墓穴を掘りそうであったので俺も会話に加わる。
「アレク、先日は迷宮で助けてくれてありがとう」
言葉を発しながら念話をアレクと繋ぐ。
『話をあわせろ』
『任せるわ。なんかすっごい姫様に睨まれてる。
俺、何かしたかな?』
裏で念話で話しながら。
「おう。元気そうで何よりだ」
「アニエス姉さん、アレクは私が先日迷宮で行方不明になったときも救出にきてくださったのです」
「そ、そうだったの」
ちょっとバツが悪そうにアニエスは顔をふせる。
「先日はありがとうございました」
にっこりと俺は笑顔を張り付け、アレクに礼を述べる。
『アレク、次に俺を適当に連れ出す流れで』
『任せろ』
打ち合わせを行う。
「さてと、姫様には悪いがアリスちゃんをかりるぜ」
「えっ!?」
唐突のアレクの言葉。
適当とはいったが、あまりにも直球であった。
再びアニエスは俺を背中で隠すと猫のように威嚇する。
そんなことは意にも介せずアレクは言葉を続ける。
「明日学校休みだろ?」
「休みだけど……」
「なら行くぞ」
俺の返事を待たずにアレクは歩きはじめる。
ついていくのが確定事項のように。
直球で正解だったようだ。
内心、「アレクいい流れだ、グッジョブ!」というのは出さずに。
俺もしぶしぶといった様子を演技。
先日の迷宮騒動の後、慌ただしく去ったためゆっくり会話する機会は欲しいと思ってはいたのだ。
背中から、ちらちらとアニエスの顔を窺いながら。
「アニエス姉さん?」
俺の「いいかな」との問いかけに、アニエスはぷくーっと頬を膨らませながら。
「いいわよ、ふん」
別にアニエスに許可を求める必要はないのだが、不満を顔一杯に表しながらもアニエスは許可してくれた。
許可も出たので、俺は慌ててアレクの後を追う。
「明日は私とお出掛けしたかったのに……」
アニエスの小さい呟きは誰の耳にも届かなかった。
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