第二話「チュートリアル」

 悪夢から醒めると、また悪夢だった。


 最初に見えたのは中世の鎧のようなものをつけ、体のあちこちに矢が突き刺さり、白目を剥きながらそれでも歩み寄ってくる者。

 ゾンビ。

 映画とかゲームで散々見てきたがここまでリアルじゃなかった。

 距離があるはずなのに細部が見える。

 キモチワルイ。

 しかも一体じゃない。

 複数、集団が視界に映った。

 と、脳内に


 不死の王ノーライフキングの配下 レベル14 との情報が伝わる。


 右下に白丸のアイコンみたいなものが視界に入る。

 何となく、手を伸ばしタッチパネルの感覚で触れる。

 ゲームのように複数のアイコンが表示される。

 そのなかに『ステータス』と表示されている項目があった。

 タッチする。

 名前、ウチダナオキ。知ってる。

 性別、♂。知ってる。

 年齢、17。知ってる。

 種族、人族。エルフとかもあるのか?

 状態、正常。混乱の間違いだと思う。

 レベル、1。


(ああ、これも夢か)


 直樹は冷静に今の状況を判断したタイミングで視界中央に


『HELPを有効にしますか? Yes/No』


 ポップアップが表示された。

『Yes』をタッチする。


『これより音声ガイドを始めます』


 脳内に突然声が響いた。

 ……合成音声みたいだが、先程の夢でみた少女の声にも聞こえる。


『敵を確認。マップに敵位置情報を表示します』

 

 右上にマップウィンドウが表示され、真っ赤になっていた。

 

『多数の敵視ヘイトを確認しました。討滅を推奨します』

「俺のレベル1に対して目の前に見えるゾンビはレベル14って表示されてるんだが……。これは逃げるべきじゃないのか?」

『問題ありません。アンデッド属性に対し有効な魔術を使えます』


(魔術、ね)


 さも当たり前のようにファンタジーな言葉が返された。

 異世界モノの小説を読んでいるうちに、年甲斐もなく異世界への憧れを抱いたのかなと直樹は考える。


(なら敵はせめてもっと竜とかファンタジーっぽいものにしてくれよ)


 心の中で愚痴を零しながらも、ゲームのチュートリアルよろしく、目に見えぬ直樹のお助けキャラに言葉を返す。

 

「俺、魔術なんて使ったことないんだけど……。どうやったら使えるんだ?」

『簡単です。《セイクリッド・ディストラクション》と復唱してください』

「えっと、《セイクリッド・ディストラクション》」

 

 復唱するのが恥ずかしいなと思いながらも従う。

 体を今まで経験したことのない、何かを吸われたような虚脱感が襲う。

 それに伴い確かな力が収束していく感覚。

 収束した瞬間、ゾンビ集団の先頭あたりから光の柱が上がった。


(おー、魔法。ファンタジー!)

 

 夢とは言え少し興奮した。


『聖魔術《セイクリッド・ディストラクション》はアンデッド属性の敵に対して即死効果を付与します』


 どうやら俺は夢の中でゲームをしてるみたいだ。

 夢らしくバランスが無茶苦茶。


(レベル1から即死スキルを覚えるゲーム、それなんてクソゲー?)


 まぁ夢とはいえ、あんなリアルなゾンビに近づきたくない。

 この魔術を使えば遠くから一方的に攻撃できるのはありがたい。


『レベルが5にあがりました。どんどん行きましょう』


 作業ゲーの始まりだった。



 ◇



 どうやら俺は夢の中で出会った少女、自称神イオナにより異世界に召喚されたらしい。

 その事実に納得するまで暫く時間がかかった。

 やたらとゲームみたいな仕様になっているのは神イオナの趣味らしい。


 曰く


『イオナ様はマスターの元の世界の娯楽が大変お好きで、それを参考にマスターに与える固有能力ギフトを創造したと伺っております』

 

 この脳内に語り掛けてくれる音声は『ヘルプ』と名付けられた精霊らしい。

 ヘルプを通じてこの世界で俺が召喚された理由もわかった。

 目的は不死の王ノーライフキングと呼ばれるモンスター(なのか?)を倒すこと。

 穢れた魂の塊が具現化したものらしい。

 イオナが与えてくれた能力に『情報収集サーチ』というものがある。

 一度見たことのある物であれば簡単な情報を調べられる。

 不死の王ノーライフキングを見たことはないが、ブックマークに予め登録されていた。

 

(……ネット検索かよ)


 その情報により、不死の王ノーライフキングの場所やレベルはわかった。

 レベル62。

 ヘルプによると、この世界でレベルが高いものでもレベル30台がせいぜい。

 不死の王ノーライフキングはちょっと強いってレベルじゃない気がする。

 現在の俺のレベルがちょうど50。

 範囲魔術によるまとめ狩りでだいぶレベルはあがったが、不死の王ノーライフキングのほうが高い。


(場所はわかるがもう少しレベルを上げないと対峙したくないな……)


 死んだらどうなるのかヘルプに聞いてみたところ、『死にます』と回答が返ってきた。

 そりゃそうだ。


 『ステータス』の下の方に固有能力ギフト一覧という項目があった。

 それによると『UI』『索敵』『情報収集』『精霊の友』『看破』『神の加護』の6つ。

 『UI』、この視界に入るアイコン関連のことだろう。ON/OFFもできる。ゲームだ。

 『索敵』、そのまんまだ。『UI』との組み合わせで視界内にマップ表示+敵表示といったことができる。便利。

 『情報収集』、さっき説明した通り。

 『精霊の友』、ヘルプと脳内で会話したりといった能力かと思ったら違うらしい。効果としては魔術の詠唱を省略したりできるとのこと。

 初めて使った魔術《セイクリッド・ディストラクション》も本来は、非常に長い詩を唱えないと発動しないとか。

 また時間があるときにでも、ヘルプに詳しく聞いてみようと思う。

 『看破』、敵が使ったスキルがわかる。あと見たスキルを使えるようになる。

 『神の加護』、これはよくわからない。

 今のところわかっている効果は呪いといった類の攻撃を全て抵抗レジストするくらいか。

 あと、俺が覚えている技や術は『アンデッド絶対殺すマン構成』であった。

 ヘルプにスキルの説明を求めると『アンデッド属性に対して~』から始まる。

 偏りすぎだろ!


 

 ◇


 

 俺はゲームを攻略する時、スキルといったもので憶えられるものはできるだけコンプリートしたい性格である。

 せっかくなので色々なスキルを使えるようになりたいと思うのも自然なことであった。

 最初に与えられたスキルからさっさと不死の王ノーライフキングを倒しなさい!との思惑が見えてくるが、この辺は元日本人らしく「善処します」とのことで。

 レベル上げて、もっと他の技や術を習得したいな……。

 今後の方針は決まった。

 そんな時に一人の男が近づいてくる。

 表示されるレベルはレベル21。

 それがガエル・アルベールとの出会いだった。

 その後色々な事があり仲間達と出会っていく。

 結局、不死の王ノーライフキングを倒すまでに一年かかった。

 神イオナの願い通り、打ち倒したが、この夢から醒めることはなかった。

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