第292話


「さっさとカギを寄越せと言ってるでしょう!

私たちは『ツバサ』の・・・」


「お待たせしてすみません。

あー。コイツらですか。

『ツバサ』の名を騙るバカ共は」


入ってきたのはこの町の警備隊。

ハンドくんが呼んだのだ。


「何言ってるの!

私たちは『ツバサ』のパーティメンバーだと」


〖 こんなバカはウチにはいませんし、今後もいりません 〗


「なっ!何よ失礼な!」


「失礼なのはキサマらだ!」


止められていたため、口を出さずにいたジェシーが受け付けに近寄って、ひとりの胸ぐらを掴む。


〖 ジェシー。

そんな『けがらわしい物体』を殴ってもよろこぶだけです 〗


「なんですってー!」


〖 ああ。言って欲しかったですか?

数時間前まで共闘関係だった男たちに股を広げていたけど、最近は飽きられていて、とうとう捨てられた。

『ツバサに寄生しよう』としたら獣人のスゥに「魂胆は知ってるぞ」と遠まわしに言われた。

何が『ハーレムを作っているから自分たちもチャンスがある』とか『大人の楽しみを教える』ですか?

あなた方みたいに誰彼だれかれかまわず大股開きたい女性のための『天職』があるんですよ。

そこでしたら飽きられて捨てられるなんてことはないので安心して下さい。

任務地は『ゴブリン帝国』や『ゴブリンの巣』ですよ。

・・・聞いたことがあるでしょう? 〗


ハンドくんの言葉に青褪めてから真っ赤になった。


「さっきから何を偉そうに!」


〖 偉いからです。

ついでに言うなら、ステータスを確認してご覧なさい。

あなたたちの賞罰に『ゴブリン帝国への供物くもつ』となっています 〗


ハンドくんの言葉に慌ててステータスを確認する2人。

驚愕の表情になったあと床にへたり込んだ。


〖 私の大切な主人をターゲットにしなければ見逃すつもりでしたが・・・自業自得です 〗


「・・・え?主人・・・?」


やっと、自分たちの相手の声が『男性』だと気付いたようだ。


「・・・いつから」


〖 『カギを寄越せ』と騒いだ時からです。

・・・別にここへ主人を出しても良かったんですが、『銀板にケンカを売った』として罪が追加されるだけで迷惑ですからね 〗


「おねがい・・・」


「私たちを助けてください」


〖 なんで? 〗


「・・・え?だって!『あの時』は助けてくれた・・・」


救いを求めたら断れた・・・というより『何故助けないといけないのか?』と問い返された。


〖 『あの時』?

それはいつのことでしょう? 〗


「わ、私たちを・・・」


〖 ですから、いつ助けましたか? 〗


そう言われて顔を見合わせる2人。

そう。一度も『助けたことはない』のだ。

最初は『さくらが間違えて攻撃しないように排除した』だけ。

その後どうするのか聞かれた3人は「町まで案内してほしい」と依頼しこたえた。

この時点で『契約成立』だ。

その直後に魔物が現れた時は、いつものように自分たちに近付いてきた魔物を倒しただけ。


昼食の時も「食べ物を分けて欲しい」と必死に頼んだら、与えられたのは『魔物の討伐』。

『倒した魔物を解体して食え』と言われたのだ。

その時には『ツバサ』は結界の中に入っていて3人は入れてもらえなかった。

そして、食べ終えると『3時間もかかったの?』と事実を突きつけられバカにされた。


そこから先はまるで『遅れた時間を取り戻す』ように、申し訳程度の道を駆け下りた。

さくらも風魔法を身にまとい、『パルクール』のように楽しんでいた。

その後ろを見失わないように追いかけ、転び、1メートルの崖に気付かず落ち・・・打撲や切り傷程度で大したケガもないため、そのまま休むことなく気付いたらこの町にたどり着いていた。


・・・その代金が『金貨5枚』だった。

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