第271話


無人島に戻ったヨルクは、今もなお寝ているシーナを覆っている結界をハンドくんに解除してくれるように頼んだ。


「待って下さい!

シーナが自我を抑えられなくなったら危険です!

今までも師範が押さえこんで・・・」


「それでもだ。

今の彼女がどのように瘴気の影響を受けているのか知るには『直接調べる』しかない。

このままでは、さくらは冒険旅行を続けることが出来ない。

今はハンドくんが神を止めているが・・・『危険分子』を連れて旅をさせるのは、さくらを大切に見守っている神たちが許すはずがない。

そうなれば、キミたちを家族に、仲間たちのところへ帰したいという『さくらの願い』が叶えることが出来なくなる」


ヨルクの言葉にスゥとルーナは目を丸くする。

いくら『さくらのため』とはいえ、危険なことをしようとするヨルクに。

そして自分たちの旅が神々に見守られていることに。

そんな神々は自分たちの同行をこころよく思っていないことに。

何より、神々を止められる師匠ハンドくんの立場に。

そのすべてに驚いていたのだ。


ヨルクはシーナの近くへ行き結界の中を見ると「キミたちはセルヴァンと一緒にいてくれ」とだけ言った。

その緊迫した声に2人は黙って頷き、少し離れた場所でハンドくんから鋼の槍を預かって重さや重心の確認をしているセルヴァンのところへ向かった。

彼女たちの様子に気付いたセルヴァンは作業を止めてヨルクを見守る。

何かあれば2人を守りつつ対応が出来るように。


ハンドくんがシーナの周りに張った結界を解除すると同時に、セルヴァンたちの周りに結界が張られた。


「師匠!結界を解いて下さい!」


「師範!ヨルクさんが!・・・え?」


スゥとルーナが目撃したのは、結界が解除されると同時にヨルクに飛び掛かったシーナだった。

しかしヨルクは『ひょい』とかわして足を引っ掛けた。

簡単に転んだシーナはムキになったようにヨルクに攻撃をするが、すべてかわされて、代わりに足を掬われて転がされる。

何度も同じことを繰り返してから、ヨルクは殴るために伸ばされたシーナの腕を軽くねじり地面に叩き伏せた。

シーナは暴れるが、ヨルクは涼しい表情だ。


背中に膝を乗せて押さえているヨルクは、シーナに『清浄化』魔法を使った。

さくらを守るために創造神から教わった魔法。

繰り返し練習して、今では簡単に使えるようになった。

以前より強力になり、さくらと再会した時に上着に再度魔法を掛け直した。

寝ているさくらの体内に溜まっているおりを清浄化魔法で浄化させることもしている。

それはすべて『さくらを守るため』だ。



離れた場所で見守っているセルヴァンは改めて『さくらはヨルクの雛』だったと思う。

親鳥ヨルクを成長させる雛だと。

だからこそ、スゥたちを守りシーナを助けようとする。


無人島ココへくる直前、ヨルクには彼女たち3人と自分との関係を話した。


「そのこと、さくらは知っているのか?」


「ああ。ハンドくんの話では鑑定で知ったらしい」


「そっか。だからさくらは『戻れるよう』に頑張ってるんだな。

『今の家族』に。

そして『この大陸』に」


「まったく・・・同じセリフをドリトスにも言われた」


「ドリトス様に?

ってことは、ドリトス様も3人の事は知っているのか?」


「ああ。教えていなかったのはお前ら3人だけだ」


そんなセルヴァンがヨルクに3人との関係を話したのには理由がある。

3人に対して『冷静な判断』が出来なくなる可能性がある。

ドリトスがいない以上、事情を知り自分を叱咤出来る存在が必要だ。

・・・ヨルクは『ボルゴに関する事』を結末まで知っている。

そして『被害者のひとり』だ。

同じくヒナリもある程度は知っている。

しかしヒナリは『さくらが大切』なため、まだまだ冷静な判断が出来ない。

セルヴァン同様、いやそれより先に暴走するだろう。

『ストッパー』役にはなれないのだ。


そして、マヌイトアが獣人族の王城近くに移ってから、セルヴァンの子供たちと一緒に鍛錬を受けていた。

『獣人族の鍛錬』を。

だからこそ、まだ『習い始め』のシーナの攻撃を軽く躱していた。

『実力の差』を読めずに襲いかかっていたシーナ。

しかし獣人族は『自分より強い相手』に服従する『きらい』がある。

シーナが自分より強いヨルクに服従すれば、今の状態から少しは変えられるのではないだろうか。

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