第226話



お昼にハンドくんが出してくれたのは、何時かの屋台で食べた『海鮮お好み焼きオールスターズ参上!』でした。

エビ・カニは生地と一緒に焼いて、サーモンはあとから乗せてあった。

うん。あの時も上から乗っていたっけ。

それに『粉ものパーティー』の時も、同じものを作ったんだよね。

もちろん、定番の『肉入りお好み焼き』も。


〖 スゥ。これがユリティアの屋台で食べ損ねた『お好み焼き』です。

以前ご主人が作ったものですよ 〗


ハンドくんの言葉に目を輝かせるスゥ。


「屋台は『食べ歩き用』だから二つ折りにして食べたけどな」


「このまま、お皿に乗せたまま食べていい?」


〖 もちろん、いいですよ 〗


「熱いからヤケドするなよ」


「はい!いたーだきます!」


そういうと、フォークで突き刺して口に運ぶ。

ハンドくんが最初から5センチ四方の大きさに切ってくれていたのだ。

ちょうどチヂミみたいなものに近いと思う。

この世界では、主流は箸だけど、スゥとルーナはまだ箸よりフォークに頼っていた。

だから、ハンドくんは事前に切り分けてくれている。


「おいしーです!」


〖 そうですか。

まだありますから、おかわりできますよ。

同じ『海鮮』でも『肉入り』でも 〗


『肉入り』という言葉にスゥは目を輝かせている。


「ハンドくん。次は『肉入り』みたいだね」


〖 そのようですね 〗


さくらの前には丸いままのお好み焼きが皿に乗っていた。

それを箸で切り分けて口へと運ぶ。

その様子をスゥは食べるのも忘れてジーッと見ている。


「どうした?」


「ご主人。箸の持ち方きれい」


「ん?ああ。ずっと箸を使ってきたからな」


〖 どうしました?

せっかくのお好み焼きが冷めてしまいますよ 〗


変わらずジーッとさくらの手を見ているスゥ。

それを見て「箸の練習がしたいのか?」とさくらが聞いてみると、ブンブンと上下にかぶりを振った。

スゥ担当のハンドくんが箸を持って現れ、正しい持ち方を教えるためにスゥの指を1本ずつ箸に添わせていく。


「スゥ。正しく持てたら、こうやって動かすことが出来るぞ」


さくらが箸を開いたり閉じたりすると、それまで緊張して固くなっていたスゥの指から力が抜けていった。

指をハンドくんたちに支えられながら、切り分けられたお好み焼きを挟んで口に運ぶ。


「おお!上手くいったじゃん。

練習すれば、ひとりで上手に食べられるようになるよ」


「はい!」


スゥは1つずつ確実に『できること』を増やしている。

シーナもルーナも、泣いていては先に進めない。

・・・スゥに追いつけない。


『守りたいものがある』のなら、強くなるしかない。

肉体も、そして精神的にも。







お昼ごはんを食べてから休憩をとっていたが、スゥは苦無を手に担当のハンドくんに相手をしてもらっていた。



ねえ。ハンドくん。

スゥの折れた短剣を私のアイテムボックスに入れたら『壊れる前』に戻せたんじゃない?

なんでそれを止めたの?


『簡単ですよ。

この世界のアイテムボックスには『そんな機能』はありませんから。

それに『壊れてもさくらに直してもらえる』なんて考えを持ってしまったら、『物を大切にしない』でしょう?』


たしかに・・・。

スゥはそんなこと考えないだろうけど、ルーナならそうなりそうだ。


『それに、タイミングをみて苦無にチェンジさせようと思っていました』


ああ。今朝届いたんだっけ。


『そうです。

そのため、短剣を元に戻したら苦無を使おうとはしなかったでしょう』


さくらは、鍛錬に精を出しているスゥを見る。

スゥの動きは『猫そのもの』だ。

苦無は、そんなスゥの『ツメ』の代わりに、どんな敵でも切り裂いてくれそうだ。


「スゥ。そろそろ休みなさい。休憩したら先に進むよ」


「はい!」


スゥは苦無を腰につけた『スリープ』に戻す。


〖 スゥ。左の攻撃が弱いです。

利き手ばかりに頼っていたら、『二刀流』になりません。

左手の苦無は、攻撃を受け流す『盾』ではありませんよ 〗


「はい!師匠!ご指導ありがとうございました!」


スゥは相手をしてもらったハンドくんに頭を下げると、さくらのいるテーブルへ戻って来た。

すぐに別のハンドくんがレモン水を差し出す。


「だいぶ使いこなしてきたな」


「いえ。師匠に何度注意されても、まだ短剣を使っていたクセが抜けていません」


「それはエラい!」


「え?あの、ご主人・・・?」


さくらが誉めるとスゥがキョトンとする。

スゥは『出来ていない』と言ったのを、さくらは誉めているのだ。


「スゥは『クセ』になるほど、短剣を使いこなしていたということだろ?

凄いことじゃないか」


さくらの言葉の意味を理解したスゥは、驚きからか大きく目を見開いてから嬉しそうに笑った。






ダンジョンを進むと、ベアやウルフの他にオークやライノ、オックスにパンサーという強い魔獣が出てくるようになった。

間もなくボス戦が近いと言うことだろう。

この世界のダンジョンは基本が地下へ降りていくタイプだ。

上層階から下層部に向かうに従って、弱い魔獣から強い魔獣になっている。


『下の階ほど、瘴気が濃くなるからでしょう』


んー?

そろそろ上の方は弱い魔獣が、呼んでもないのに「呼ばれて飛び出て〜」って、出て来てないかな?


『数は少ないですが、少しずつ現れていますね』


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

これからボス戦なのに・・・


『スゥとの差が大きくなりますね』


すでにスゥは苦無の熟練度も確実に上げていて、攻撃力も400まで上がっている。

今のスゥはレベル76。

ボス戦が終わったらレベル80は確実だろう。

レベルが上がった分、各魔獣との戦い方を覚えたようで、自分で戦略を考えてから確認を取るようになった。

それも、簡単な補足と修正をする程度で、ここでもスゥの分析能力の高さが垣間見れた。


『鵡鳳が戻りました』


ハンドくんが、昨日から強化のためにドリトスに渡してあった日本刀『鵡鳳』が戻ったことを教えてくれた。

アイテムボックスを確認すると、鵡鳳の攻撃力が3,850と高かった。


『ボス相手に一撃で終了ですね』


それはハンドくんも一緒でしょ。


『残念ですが、そこまで高くありません』


白金プラチナのハリセンの攻撃力は2,500でしょ?


『熟練度を上げましたから、現在3,012です』


・・・十分強いじゃん。


『さくらは『一撃必中必ず当てる』と『一撃必殺必ず殺す』のスキルを追加した光線レーザー銃も使ってますからね』


金ダライも使ってるもんね〜。


『ボス戦にも使いますか?』


使ってもいい?

魔獣相手に使ってるからレベル4だよ。

落としたと同時に「試合しゅうりょ〜」にならない?


『人間相手には使えませんが、その分魔獣に使っていいですよ。

あれは『魔法』ですから、最大のレベル10まで成長させても、金ダライそれだけでザコならともかくボスを倒すことは出来ませんよ』


よ〜し!

だったらバンバン・・・


『ボス戦に1回だけですよ』


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・『ボス戦』だけ?


『弱い魔獣には使えませんよ。

せめて、魔獣のHPが500以上ないと。

金ダライの攻撃力が200あります。

さらに追加効果で『脳震盪のうしんとう』も。

もちろん。先日のように大量の魔獣が現れて『魔獣の数を減らすため』だったら構いません。

この先もずっと旅行を楽しむのでしょう?

だったら、こんなところで『全開』したらつまらなくなりますよ?』


・・・ならないもん。


『おや?

『ずーっと良い子でカワイイ私のさくらちゃん』は何処に行っちゃったのでしょう?』


此処にいるもん!


『はい。私のカワイイさくらちゃんは此処にいますね。

では、本日のデザートは何にしましょう?』


プリンアラモード!


『プリンの上にホイップクリームとサクランボ。

バニラアイスとフルーツ盛り合わせ』


ハンドくんの言葉に、さくらは我慢が出来なくなってくる。

それに気付いているハンドくんは、さくらの頭を撫でる。


『今日はボス戦前で終わりですよ。

ボス戦は体力を回復させてからの方が良いでしょう。

スゥは今日も1人でよく頑張りましたからね。

今日のデザートはスゥの分も用意しますよ』


甘いものは疲れを取るのに良いんだよね。

スゥが『ここまで頑張ったごほうび』だね。


〖 スゥ。階段を降りたら広場があります。

今日は其処で泊まります 〗


「はい。師匠」


前を歩くスゥにハンドくんが指示を出す。

其処は広場というか・・・重厚な両開き扉の前に出来た空間だった。

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