第217話



シーナの願いは『大切な人たちを守れる強さと勇気がほしい』でした。

そのためなら努力を惜しまない。

真っ直ぐな目でそう誓っていた。

これから行く迷宮で、伸ばすところと足りないところをハンドくんたちが見極めるそうだ。

一瞬でも気の緩みが出れば生命取りになる。

その緊張感を3人は持続させなければならない。

まだ『子ども』の3人に、それが出来るだろうか。


『出来なくても『する』しかありません。

彼女たちは『同行者』ではなく、さくらの『従者』です。

戦えなければ、『奴隷』扱いにしなくてはなりません』


うん。ハンドくんはそう約束させてたよね。


『これは『さくらの冒険』ですから。

さくらの背後に隠れて戦えない『足手まとい』は、私たちには必要ありません。

連れ出した以上は途中で放り出しませんし、今まで通りに『従者』の立ち位置ですが扱いは奴隷です』


ハンドくんの言葉はキツいけど、この世界・・・それもアリステイド大陸以外では、『甘やかしはその人のためにならない』と神々から言われている。

『死と隣り合わせ』だからだ。

相手のためを思うなら、厳しくても『生き残れる方法』を教えることが大切なのだ。

・・・そう考えると、日本は平和な国だったな。


『さくらは『今のまま』でいて下さい。

彼女たちには『甘やかしてくれる存在』が必要ですから』


でも・・・それではハンドくんたちが『悪役』になっちゃう。


『大丈夫です。

少なくとも、シーナには『私たちの言葉』も『私たちの願い』も届いていますから』


ハンドくんの言葉に、前方を歩くシーナを見遣ると、シーナは『危険察知』の練習をしつつ、『はじめての冒険』に興奮しているスゥとルーナの手を握って、2人に説明をしている。


「ご主人様は私たちの『実力』を確認するために迷宮ダンジョンへ探検に行くのです。

もしこれで『未熟』と判断されたら、私たちはご主人様に捨てられ、『路頭に迷う』ことになります。

それと、実際に『魔獣の解体』も実践するから、ちゃんと『覚えたこと』が出来るようにしなさい」


確かに、シーナは私たちが何のために『日帰り探検』に行くのか理解している。

・・・ハンドくん。教えたの?


『シーナは自分で答えを導き出しました。

その『答え合わせ』で聞かれたので肯定しただけです』


もしかすると、シーナは『高い知識を持っている』のかも。


『その可能性はあるでしょうね。

教会で文字の勉強と簡単な計算は習ってきたようですし。

ですが、今まではそれ以上の勉強はしていません。

村の日常生活で日々追われていたでしょうから』


どんな生活かは分からないけど、彼女たちの住んでいた村の上下水道が整っているとは思えない。

そのため、村に井戸があるかは別として、『水汲み』『水運び』という仕事が子どもたちに与えられているだろう。

田畑の世話もしてたようだから、勉強は出来なくてもおかしくはない。


『シーナにはひと通りの家事を教えましょう。

シーナがスゥとルーナに教えることで、シーナには復習となり、何を理解していないのかが分かると思いますよ』


シーナには、以前からの予定通りにハンドくんたちが『この世界の料理』を教えることに決まった。


でも、まずは『探検』から無事に帰ってからの話だね。


『さくらは『手出し無用』ですからね』


今回は3人の『実力』を知るためだもんね。


『彼女たちが、実戦でどう動くかを判断しないと、さくらの銃は元より『金ダライ』が使えませんからね。

彼女たちの上に落としたくはないでしょう?』


ヘルメットでも被せる?


『それでも脳震盪は避けられませんね』



・・・・・・はじめての『洞窟探検』なのに、ただ『くっついて行くだけみ〜て〜る〜だ〜け〜』になってしまいました。


『今回は彼女たちの『熟練度』の確認ですからね。

『見守り』もご主人様のお仕事ですよ。

今日の『ごほうび』は何にしましょう?』


ショートケーキがいい。


『はい。イチゴをたっぷり挟んだ『三段ショート』にしましょうね』


明日はミルフィーユ!


『良い子にしていたら、ですよ』


その次が『ザッハトルテ』で、その次が『ティラミス』!『エクレア』に『シュークリーム』も。


『何時まで良い子でいられるでしょうね』


ハンドくんが一緒ならずーっと!


『では『ずーっと一緒』ですから、『ずーっと良い子でカワイイ『私の』さくらちゃん』のままですね』


ハンドくんが離れたら『悪い子のさくらちゃん』になっちゃうからね。


『それはそれは『責任重大』ですね』


そう言いながら、ハンドくんはさくらの頭を撫でる。

さくらは、とびきりカワイイ笑顔を見せていた。


その笑顔を見たのは、ハンドくんと『遠くから見守っのぞいている』神々だけだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る