第215話



〖 さくら。もう朝ですよ 〗


「ん〜。まだねむ〜い。ねる〜」


昨夜は色々と『思うこと』があったため、寝るのが遅くなってしまった。

でもさくらの現在いまは、ただの『駄々っ子』なだけだ。


「ハンドくんも一緒に『ねんね』するの〜」


〖 今朝のデザートは何にしましょうか? 〗


「ゼリーが食べた〜い」


〖 では『恐竜島』で収穫したみかんで作った『みかんのゼリー』にしましょうか 〗


「うん!」


〖 では起きましょうね 〗


「は〜い」


ハンドくんに頭を撫でられて、気持ちよさそうに目を閉じていたさくらだったが、ハンドくんが手を止めると「もっと〜」と甘えるように両手で頭の上にいるハンドくんを触る。


〖 朝から『甘えんぼ』さんは誰ですか 〗


「わ・た・し♪」


「だって『素直に感情を表に出していい』って言ったのハンドくんだも〜ん」と笑顔で言われて、〖 あと少しだけですよ 〗と『頭ナデナデ』を再開した。







「すっかり『以前のまま』だな」


「創造神さま?」


何時いつものように、リビングで『様子』を見守っ覗いていた創造神の呟きを、テーブルで植物の記録を書いていたヒナリが拾っていた。


「・・・もしかして『さくら様たち』のことですか?」


ズバリ言い当てたジタンに、創造神は苦笑する。

その様子に、ジタンとヒナリは顔を見合わせてニッコリと笑い合う。

きっとハンドくんから『手出し無用』とキツく言われているのだろう。

実際、創造神とアリスティアラは、さくらたちが『観光旅行』に出かけてからリビングにいることが多い。

・・・まるでハンドくんたちから、行動を『監視』されているように。


「さくらは元気ですか?」


「ああ。『元気』にしているよ」


「また『なにか』やらかしていませんか?」


ヒナリの言葉は質問形だったが、彼女の中ではすでに『確定事項』らしい。

否定をしたい庇ってあげたい』が、神は『嘘を吐けない』。

創造神が何も言えないでいると、『肯定』と受け取ったヒナリがジタンに「やっているみたいね」と苦笑する。


「その時に、さくらたちはケガをしていませんか?」


「それは大丈夫だ」


今度はハッキリと言ってもらえたヒナリとジタンは安心したように息を吐く。


「さくらは『元気』で、相変わらず『自由に楽しく』してて、もちろん『ケガはしていない』。それだけで十分だわ」


優しく微笑むヒナリに創造神は驚く。

さくらが手元から離れた時から、ヒナリは確実に成長していた。

はじめは『誰よりも取り乱す』と思われていたヒナリだったが、実際は誰よりも強く、そして誰よりもさくらを『信じていた』。

創造神も他の神々もヨルクたちでさえも、さくらが旅立った時のヒナリのセリフは『強がり』だと思っていた。

しかし、彼女は『宣言』通り、自分の出来ることを見つけて『仕事』にしている。

図書室にある植物の図鑑や『理科の教科書』で、植物に関する勉強を始めた。

そして、調べても分からないことはジタンやヨルクと相談し、それでも分からなければハンドくんたちに教えてもらっている。

教わったことを3人で議論し、その内容を『この世界でも可能か』を神々に相談している。

それは『この世界の植物に悪影響を与えること』を避けるためだ。

この世界の『植物環境を破壊する』ことはすなわち『この世界を破壊する』ことに繋がるのだ。

・・・この世界では『植物の研究』が一度もされたことがない。

種を植えれば勝手に芽が出ていずれ花が咲く。

そして田畑では穀物が出来る。

芽が出なければ諦める。

『何故芽が出なかったのか』という『原因究明』はしていないのだ。

ヒナリは『今まで誰にも見向きされなかった研究』を始めたのだった。




昨夜ジタンは、『さくらからの提案』として『文字かるた』の製作を依頼された。

さくらの世界にある『文字かるた』を取り寄せてもらい、『どういうものか』をハンドくんに説明してもらった。

確かに『遊びながら文字を覚える』のに適しているだろう。

さくらの旅に同行している『獣人の少女たち』で試して、もしよければ『アリステイド大陸でも使ってみよう』という話になっている。

そして、『単語の裏に何の絵を描くか』という話で、ヒナリが『小さな子供でも分かるもの』を次々に提案していた。

ただ、『さ』で『さくら!』と即答し、「流石にダメだろう」と却下されたが・・・

もし『さくら』が通ったとして、絵はどうするつもりだったのか。

この世界には『桜』はないのだ。


それと同時に『たし算カード』も作り、試してもらうことになった。

ハンドくんたちから『さんすう』の道具箱を贈られて『使い方』をレクチャーされた彼らは、いまはそれを『この世界用』にアレンジする計画を立てている。





「ただいま・・・何かあったのか?」


『恐竜島』まで植物調査に行っていたヨルクが、ハンドくんの『転移魔法』で帰ってきた。

彼はまだ『転移魔法』を取得していない。

あれは『練習すれば取得出来る』ものではない。

失敗すれば『生命を失う』危険な魔法なのだ。

それも『自分の比翼ヒナリ』を巻き込んで。

それが分かっているため、彼は石を使った『転送魔法』を練習している。

まだ『10回転送して1〜2回しか成功』していない。

「さくらに『何か』届けられるようになる」のが、彼の『今の目標』らしい。

恐竜島でハンドくんがした『脅し』が、彼に効いているようだ。

そして、他の大陸で使われている『転移石』はこの大陸にはない。

そのうち、さくらが『おみやげ』として持ち帰る『転移石』を使って、『研究施設』で開発されるだろう。




「おかえりなさい。創造神様から『さくらは変わらず元気』って教えて頂いたの」


「そっか。さくらは『元気』かぁ」


「また何か『やっている』そうですよ」


「あの『さくら』だぜ。『大人しくしている』はずないだろ?」

「どうせ。あのハンドくんだって『さくらが楽しそう』ってだけで、さくらの暴走を止めないと思うぜ」



ヨルクの言葉に「それもそうですね」とジタンが同意すると、ヒナリも頷いて同意した。


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