第122話


ちなみに『野菜売りのお婆さん』を含めた人たちには『修復魔法士』が派遣されてカゴなどを無償で修理してもらえた。

実はこれも『さくらの発案』だった。


「たとえ壊れても愛着を持って使ってる人だっているよね。だったら『新しいものをプレゼント』するより『無償で修理』してもらえた方が喜ぶよ」



さくらの言うとおり、お婆さんのカゴは『亡きダンナがいつも背負っていた『思い出深いカゴ』』とのことだった。

思い出のカゴが修復されて、お婆さんは『ダンナがよみがえったようだ』と泣いて喜んだらしい。

さくらの言うとおり、お婆さんのカゴには『防水・防腐加工』の魔法もかけられた。


魔法士たちは「さくら様のご指示でジタン様が自分たちを遣わされた」と話したため、見たことのない『さくら様』を慕う声があがった。

さくらの『絵姿』を求む声もあがった。


しかし、さくらはそれを望まないだろう。



国民には『飛空船事件』や『エルフ族襲撃事件』で生命を狙われた事実も知られており、国王代理ジタンからもその事実から絵姿の公表は正式に却下された。




「なんかね。『ヘンな人』がいっぱいいたんだよ」


「『ヘンな人』ですか?」


ジタンの言葉に「うん」と頷くさくら。


「『キミはいくらほしい?』って聞いてくる人がいたの。それも何人も!」


さくらは「この世界にも『買春かいしゅん』ってあるのかな?」と不思議そうな表情をみせる。

さくらの言葉にジタンも驚きの表情をみせたが、それは『さくらが感じた驚き』とは違っていた。


さくらのいう『ヘンな人』たちとは、子供たちを国内外の『裕福な屋敷』に『性目的の人身奴隷売買』をする犯罪者集団のことだ。

さくらは市井には『男の子』の姿で行ったのだ。

それでも声を掛けてきた男たちが沢山いたようだ。

王城を襲ったエルフたちのように他種族・・・特に人族を苛虐かぎゃく加虐かぎゃく嗜虐しぎゃくの対象と見ている者は少なからずいる。

さくらの世界の『ペット』のように、この世界では他種族の子供が売買されているのだ。

中には金銭目的で同族にさらわれて売られている。



男たちは目をつけた子供を逃さない。

そして子供の言った金額が『子供の値段』として親へ『子供の身につけていたもの』と共に送られてくる。

もちろん子供の欲しがる金額は『銅貨1~2枚』程度で『売買』の取引金額は『金貨100枚』前後らしい。



そういう情報を耳にして調査を始めたのはジタンが『皇太子』時代。

まだ『先代の聖なる乙女』がいた頃だった。

しかし、ジタンたちがどんなに調べても『存在自体』掴めておらず、まだ『ウワサの域』を脱していないのが現状だった。

さくらが帰ってきた時に話していた男も『その関係者』という可能性が出てきた。


「さくら様の仰られる通り、確かに『ヘンな人たち』ですね。分かりました。詳しく調査させて頂きます」


ジタンが徹底的に調べると約束したため、それまで不安げな表情だったさくらに笑顔が戻った。



実はハンドくんがホワイトボードに【声を掛けてきた者たちの隠れ家アジトは調査済み。あとで詳細を教える】と書いてさくらの後ろから見せていたのだ。

ハンドくんたちはさくらが楽しく過ごしている『ジャマ』をした連中を調べているうちに『犯罪組織』に気付いたのだ。

『さくらが町で安心して楽しく過ごしてもらうために犯罪者を『片付ける』のは当然』という考えのハンドくんたちは、ジタンにその『片付け』を押しつける気なのだ。

もちろんハンドくんたちが『片付け』ても良いのだが、それでは『ジタンのため』にならない。


父王が天罰を受けてしまったためジタンは来月に国王を継ぐことが決まっている。

その時点でジタンは『前王が天罰を受けて国王になった』というマイナスイメージからの出発だ。


そんな立場で『自国の問題』を他者ハンドくんたち任せてい片付けられたら『次期国王』としての面子メンツは丸つぶれになる。

ジタンならその時はきっと『さくら様の手柄』と国内外に発表するだろう。


ハンドくんたちは『一応』ジタンの立場を考慮して『譲った恩を着せた』のだった。





扉をノックする音と共に「ジタン。ちょっと良いか?」とセルヴァンの声が聞こえて、さくらがビクリと肩を揺らす。

ハンドくんたちはポンッと音を立ててその場から次々いなくなった。


「少年の姿ですから大丈夫ですよ。このままお待ち頂けますか?」


ジタンが小声でさくらに話すとコクコクと頷く。

そんなさくらに補佐官が果実ジュースの入ったグラスを差し出す。

ジタンが執務机に戻ってから入室の許可を出すとセルヴァンとドリトスが入ってきた。



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