第57話




ヒナリが目を覚ますと、隣の部屋で寝ていたはずの自分がさくらの横で寝ていた事に驚く。

頭を撫でられて顔を上げるとヨルクがとろけそうな表情でみていた。


「・・・ヨルク」


「シィー」


なんて顔してるのよ。と言おうとしたら、唇に人差し指を当てられて止められた。

ヨルクの目線につられて下を見ると、頬をピンク色に染めてスヤスヤと微笑んで眠るさくらが目に入る。

その姿に愛しさがあふれ出して口元が綻ぶ。




「『シアワセ』だろ?」


さくらの頭を撫でているヨルクが小声で同意を求めてくる。

悔しいけどその通りだから頷く。


それに満足したのかヨルクがさくらの頬にキスをする。

くすぐったいのか、ふにゃっと笑うさくらが可愛くて、自分も反対の頬にキスをする。

さらにふにゃっと笑うさくらに、今まで以上に愛しさが湧き上がった。





ヒナリが目覚める前。


ジタンが『呪い除け』を付加された『セイジュのブレスレット』とさくらから譲られた『乙女の魔石』を持って部屋を訪れた。

ヨルクはちょうど寝室から出てきたところで、そのままジタンの話を聞くことに。


神から『呪いのチカラを弱めるには、寝ている彼女の横で乙女の魔石に魔力を流せ』と教えられたそうだ。

ただ、呪いが弱まっても、落ちている体力や身体の機能はすぐに回復しないらしいが・・・


「それでもさくらは少しずつでも元気になれるんだろ」


苦しむ回数が減るなら良い事じゃないか。

昨夜から何度も寝ながら胸を押さえて苦しむさくらの姿が思い出される。


ジタンの部屋から戻って寝室に入ったときも、胸を押さえて苦しんでいた。

それなのに、真っ先に口にしたのはオレやヒナリのこと。

今までも、ひと言も「苦しい」など泣き言が口から紡がれたことはなかった。






「ジタン」


今から出来るか?

そう聞いたら「すぐ出来ます」と言ってきた。

ジタンはヒナリを起こすか聞いてきたが、わざわざ起こす必要はない。

『呪い』のことをヒナリに教えても悲しませるだけだ。

それに、昨夜あまり寝ていなかったヒナリは今ぐっすり寝ている。

動かす気もなかった。



・・・『試したい』事がある。

それにはヒナリの『協力』も必要だった。





ジタンがヒナリとさくらが眠るベッドの脇に立つ。

手にした淡いピンク色の魔石に魔力を通すと、白い光が室内にあふれ出す。

さくらからあふれた光と同じく柔らかい光だ。

魔石に共鳴するように、さくらの身体が少しずつ光り出す。

それと同時に、さくらにまとわりついている、朧気おぼろげに見えていた黒いモヤがハッキリと姿を現す。

同時に胸を押さえて苦しみ出すさくら。

ジタンが一瞬焦って魔力を止めるが「続けろ」と声をかけてベッドに座り、胸を押さえているさくらの手にヒナリと自分の手を重ねる。


「もうすぐラクになるからな」


そう言って空いてる手でさくらの頭を撫でる。

室内を照らす魔石の光が一気に強くなった。

振り向くとドリトス様とセルヴァンが魔石に手を伸ばして魔力を注いでいる。


「さくら。みんなも一緒にいる。もう大丈夫だ」


苦しさからか、さくらの目に浮かんだ涙を拭って重ねた手に魔力を流す。

オレにつられるように、眠っているヒナリからも魔力がさくらに流される。

青白い光がさくらの全身を巡ったのを視認すると「さくらから消えろ!」と強く念じる。

同時に青白い光が強くなり、さくらに纏って苦しめていた黒いモヤが四散し消滅していくのを確認した。




「もう、これで大丈夫だ。さくら」


部屋中に広がった青白い光の中で、ヨルクの声だけが聞こえた。

光が収束して見えてきたのは、さくらとヒナリの上に重なるように倒れているヨルクの姿だった。


「ヨルク!しっかりして下さ・・・い?」


ジタンが慌てて抱き起こしたヨルクは、寝息をたてて眠っているだけだった。


「魔力を使い切って疲れたんじゃろう」


「もう少し、魔力の使い方を教えないと。このままでは身を滅ぼすぞ」


「『親鳥』は『雛』を守るためなら何でもする。それこそ命懸けでな」


3人は昨日のヨルクとヒナリの事を思い出す。

火球が迫ってきた時に、さくらを命懸けで守ろうとした時のことを。


「ヨルク。お疲れさまでした」


ジタンの声が聞こえたのか、ヨルクは満足げな表情をしていた。



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