暗号

 ある館で殺人が起こった。

 閉鎖的な空間で共に過ごしていたのは八人。その中の一人が、朝、個室で血を流してうつ伏せになっているのを発見された。

「これは……」

 その部屋の中で、探偵は一枚の紙を見つけた。

 小さい紙面の中には、様々な図形やアルファベットが重なるように記されている。

「被害者が殺されたあと書いたとは考えにくい……。とすれば、これは犯人からの挑戦状というわけか……」

 探偵は呟きながら、部屋に集まった六人を見渡す。

 小太りな館の主。

 アルバイトと称して、館で働く使用人の少女。

 観光に来たと言う初老の男性。

 ペアルックのカップル。

 占い師を自称する女性。

 皆、一様に緊張した面持ちでいる。


 ただ、彼らはまだ気付いていない。被害者……否、画家の青年が血糊を使ったアート作品を製作していて、途中で寝オチしたなどということには。

 その証拠に、青年の着ていたTシャツの前面には、部屋にあった暗号と同じようなデザインが描かれていた。あの紙は、ただのデザイン案をメモしたものだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る