第180話 新しい部屋
大ちゃんはその後、小次郎が用意してくれたマンションに滞在することになった。
「小次郎さん、ここは・・・」
「そう、ボクも住んでいるマンションだよ。あまり大きくはないけどね、設備も環境も、交通の便も良くていいところなんだ。気に入ると思うよ。
ボクと同じ部屋でもよかったんだけど、結婚前だしね・・・。でも隣の部屋だよ」
最上階を二分しているもう一つの部屋が、大ちゃんの部屋になった。
「こんな・・・ボク、お家賃とか払えないです。」
「バカだね、そんなものいらないよ」
ニコリと微笑む小次郎。
大ちゃんは知らなかったのだが、小次郎はマンションのほかの住人をすべて引っ越しさせ、2人の部屋以外すべてを大ちゃんのガードマンに住まわせていた。
素敵な部屋を見ても、ため息しか出ない大ちゃん。
(はーっ・・・。どうしよう・・・)
まだ家具しかない部屋で途方に暮れる。
両親のことは、小次郎に任せることに決めた。
すでに大ちゃんの父親も母親も、小次郎には絶対の信頼を寄せていたし、何より小次郎の財力と説得力があればどんな無茶でも信じるだろう。
(小次郎さんって・・・何者なんだろう・・・?)大ちゃんはふと考えた。
ただの大病院の息子ではない、ということは分かった気がする。なにか凡人には分からない世界の人間なのであろう。
(あの日・・・。小次郎さんがボクにぶつかったという日・・・。おかしくない?あの小次郎さんが人にぶつかるようなことする・・・?)
微かに頭に浮かぶ疑問。
(それに。どうしてあんな高校に通っていたんだろう?)
大ちゃんが通う高校の卒業生だという小次郎。悪い高校ではないが、ごく普通の公立高校である。
あのパーティーにいたような、一流を約束された人間に尊敬される人物が通うような高校ではない。
(小次郎さん・・・。不思議な人だなぁ・・・。)
ある日突然、男から女に変わった自分より奇妙な感じがするのだった。
小次郎は時間さえあれば大ちゃんの部屋に来たり、自分の部屋に招いたりして、なるべく大ちゃんを一人にしないようにした。
しかし何不自由のない生活でも、まったく外に出られないのはさすがのインドア派大ちゃんでも息が詰まった。
マンションに来て五日目、お茶を飲んでいるときに大ちゃんは小次郎に尋ねてみた。
「あの、小次郎さん。とてもお世話になってありがたいのですけど、ボクはいつまで外に出ちゃいけないんですか?」
「大くん。キミのことをまだ瞬は諦めていない。ボクたちが・・・結婚するまではあとなしくここにいて欲しい。」
「結婚・・・。やっぱり・・・それは・・・」
「出来ない、なんて言わないで。そうするのがボクにとってもキミにとっても一番いいんだ。」
小次郎は、大ちゃんに小さな白い手に自分の手をそっと置いた。
小次郎は隣に住んで五日間、大ちゃんにキスもしていない。
「キミが16歳になるまであと1か月だよ。とりあえずそれまでの辛抱だからね。」
大ちゃんはすっかり忘れていた。来月は自分の誕生日がある。
外出もできない日中、大ちゃんは小次郎に勉強させられていた。
本来するべき高校の授業のカリキュラムはこなしておくべきだと言う小次郎の考えだ。
授業はネットで講師に教えてもらったり、小次郎に直接教えてもらったり。
一日3時間程度だが、ワンツーマンで教え方がいいので、勉強が得意でない大ちゃんでもこなすことができた。
「勉強でもしないと・・・やることないし。」
その日のノルマを終えてつぶやく大ちゃん。
ネットだけは自由に見ることができたので、その後の時間つぶしはもっぱらネットを見ることだった。
ただし小次郎が操作したのか、メールやSNSは一切利用できなくなっている。
それでも、ボタンの操作だけでニュースやドラマ、映画にお笑い。なんでも出てくる。
「やっぱり、こんな時にはお笑いでしょう!」
大ちゃんはもっぱらお笑いの動画を見漁っていた。
どんな環境にいても、笑うと元気が出てくる。
その時も、大ちゃんはお笑いの動画を探してた。
すると、突然画面が揺れる。
「あ・・・れ・・?」
一度真っ暗にフェイドアウトするモニター。
「壊れちゃった・・・?」
大ちゃんが恐る恐るいくつかのボタンを押していると、急に画面がパッと明るく光った。
「うわっ!」
画面いっぱいに何かの動画が流れている。
「”あ・・う・・・”」
女の子の声。
大ちゃんでも、すぐにHな映像であることは分かった。
「わ・・えっと・・・ウィルスでも入ったかな・・・?」
と言いつつじっと画面を見る。
「!!!」
思わず口を押えた。
2人の男女が広いベッドの上でうごめいている画像。
男の髪は栗毛に近い茶髪で、女は・・・
「ボクだ・・・」
それは、瞬に暴行されている自分だった。
しばらく茫然として画面を見る。
泣きながら瞬を受け入れている自分を、まるで違う人のような気持で見ていた。
5分ほどその映像が流れた後、文字だけの画面が出てきた。
”この映像を世界に流すことも出来る。あなたが小次郎の妻になった場合、彼に恥をかかせる結果になるだろう。
それが嫌なら、今夜9時、1人でベランダに出なさい”
大ちゃんは震えながら時計を見た。夜の9時まで、あと5時間しかなかった。
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