第110話 東の空へ

緑色の巨大なハエは、何万、何十万もの銀バエを引き連れて、青白いヒョウガの城の上空を覆った。


ハエは、何回か空を回ると、リーフと空を見上げるブルー王を見つけた。


ブブブブ・・・・不快な羽音を立てて近づいてくる。


ブルーは馬から降り、剣を構えた。

「あれは何・・・?ブルー・・・!」

「わからない・・・泉の者か?リーフ、下がっていろ・・・!」

ブルーはリーフを背中に隠す。


巨大なハエは、ブルーに向かって飛んできた。ブルーがよけると、再び旋回して向かってくる。

「ブルーを狙っているみたいだよ?!」

「くっ!」

三度目に向かってきた時、ブルーはハエの腹を切りつけた。

黒く悪臭のする液体がハエの傷口から吹き出る。

その液体がブルーとリーフに降りかかる・・・ブルーはリーフを胸の中にかくまいかばった。

黒い液体はブルーの背中に降り注ぎ、皮膚を焼いた。

「ぐっ・・・・」

「ブルーさん!大丈夫?!」

ブルーのマントは完全に溶け、焼けた背中の皮膚が赤くむき出しになっている。

嫌な音を立て、黒い煙が上がる。

黒い液体はまだなお、皮膚を溶かしながらブルーの体に侵入しているようだった。


あまりの激痛に地面に倒れ込むブルー。恐ろしいハエはなおもブルーめがけて向かってくる。

「このままじゃ、ブルーさんが殺されちゃう!」

リーフは妖精の剣、風のレイピアを構えた。


リーフがレイピアを持つと、青い風が巻き起こり、王子の背中を癒す。


向かってくる巨大なハエ、リーフは無我夢中で剣を振り回した。

剣が巻き起こす青い風はハエを寄せ付けなかったが、リーフたちがその場所から逃げることはできない。

何万もの銀バエにも取り囲まれて、周りが何も見えなくなってしまった。


このままでは、どこから飛んでくるかわからない巨大なハエに襲われてしまうと、逃げられない。

その時、銀のハエの壁を切り裂く何かが見えた。


「サスケさん!!」

サスケだった。大剣を一振り、ハエたちを吹き飛ばす。

黒ずくめの長身はしなやかに動き回り、リーフのもとにやって来た。

「ご無事で」

「ボクは大丈夫!ブルーさんが・・・!」

ブルーは剣で体を支えるのがやっとの状態だ。


ビュンッと、矢がリーフたちを取り囲むように落ちてきた。

城の塀の上に、弓を構えたロック立っている。


ロックは恐るべき正確さでハエを狙っていた。



巨大なハエは銀バエたちを集め、東の空へ消えていく。

ツバサの国の方向へ。


その方向の丘に、黄金に輝く馬、サンダーに乗ったクルトがいる。

いつもの優しいセピアの瞳とは違う、雄々しい姿で。

「クルト・・・?」

リーフが名前を呼ぶと、クルトは少しだけ微笑んだ。

「あれは、エリーだ」

とだけ言い残し、緑のハエを追いかけるように丘の向こうに消えていった。


「クルトーっ!」

リーフはどうしていいのかわからず叫ぶ。


「あれが・・・エリー姫・・・。そして、クルトは・・・?」


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