第108話 青いレイピア

「お前はいつも途方に暮れてるなぁ。」

アーサーは木から降りてリーフの頭をなでた。

「・・・アーサーさん、どうしてここにいるの?」

「お前の顔を久しぶりに見たくなってな。なーんて、ちょっと野暮用ができたからさ」

おどけたような顔で笑って見せる。


懐かしさと、アーサーの明るい笑顔にホッとするリーフ。

リンゴを拾って一口かじると、またポロポロと涙が出てきた。

「おまえ、どうしたんだよ。」

「泣かないって決めたのにカッコ悪い・・・。でも、でもやっぱりボク・・・」


リーフはアーサーに、ホシフルの国でのこと、そしてヒョウガの国での出来事をかいつまんで話した。

とくに・・・今朝までの、ブルーとのことは、なかなか細かく話せなかったが。


「そうか。お前も苦労したんだなぁ。で、どうだった?」

「え?なにがですか?」

「ブルーとシテみて。」

「・・・それ、セクハラなんですけど。普通ボクの立場の人に聞きます?」

ただ、なぜかアーサーが聞くと嫌な感じはしなかった。毒を出すみたいに、話しておきたい気持ちもリーフの中には確かにあった。

「あの・・・実はよく覚えてないんです・・・。頭がずっとボーッとしていたから・・・。

二日たったっていうのも、二回朝が来たから分かっただけで、時間の感覚もなくて。」

「ふーん・・・」アーサーは首をひねりながら聞いていた。

そして、真顔で言った。

「で、おまえ、どうしてこうなったか分かってんの?」

「え・・・?どうしてって・・・。」

「今まで、いろんな男にいいようにされてきたみたいだけど、本当に逃げることが出来なかったと思ってんの?」

「どういうこと・・・?何が言いたいの?」

「リーフ、おまえさぁ、結局男に頼ってなかったか?一人じゃ生きていけないから、守ってもらいたいと思ってなかったか?だから何をされても仕方ないとか、運命だとか思うことにしたんじゃないのか?」

アーサーの、思わぬ厳しい言葉にムッとするリーフ。

「ひどいよ!ボクだって一生懸命頑張ってきたんだから・・・!!あんなこと男の人としたいわけないじゃないか!アーサーさんのバカ!」

リーフは、赤のドラゴンのことはアーサーに話してなかった。だけど、確かに、言われた言葉は心にグサリとくるものだった。

自分がもっと強ければ。一人で生きていける力があれば。世界を救う自信があれば。

今の自分にはならなかったのだ。


「じゃあ、ボクはどうすればよかったの、アーサーさん・・・。」

「女だって、強くなれ、リーフ。もうこんなことで泣かなくていいように。お前が望むなら、ツルギの国の王子、この大剣士アーサーが手ほどきしてやろう。」

初めて見る、アーサーの真剣なまなざし。

リーフは心が震えた。


(ボクが、強くなる?

弱くてどんくさくて、いじめられっ子だったボクが?

しかも今は・・・女の子なのに?

でも・・・強くならなければボクはこのまま。

泣きながら・・・何人もの赤の欠片を持つ男に抱かれるの?


そんなの、絶対嫌だ・・・・・!!)



運命のせいにしてあきらめたくない、リーフは心から思った。



「おしえて、アーサーさん。ボクに剣を。強くなりたい!」

そう言った時、リーフの足にある妖精の紋章が紅く、熱くなり、その円の中から何かが出てきた。

「あつい!」

リーフはたまらず足を抱えて叫ぶ。

「リーフ!」


妖精の紋章から出てきたものはまばゆく光り、リーフの手の中に納まる。

「これは・・!」

アーサーが見たものは、細く長い美しい剣だった。

「レイピアか・・・!」

リーフを守護する妖精が選んだものだった。


白銀に光る、美しいレイピア。

青い宝石が魔法の力を与えている。

リーフが一振りすると、青い風が巻き起こる。

「出だしは上等だな。」

アーサーは小さな見習い剣士にウインクした。

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