第79話 変身

「エリー姫が・・・!」

ブルーはその美しい青い瞳をちょっと曇らせた。


「お急ぎください!」

知らせに来た兵士はただならない様子だ。


「わかった。ならば私だけでも急ぎ城へ駆けよう。

ベイド、リーフを頼む。」


ブルーはリーフを馬から降ろす。そばにいたベイドがすぐにリーフを引き取った。


ブルーは兵士たちに素早く指示を出すと、雪道を馬の全力で走り去っていった。



「さあ、リーフ殿、我々も急ぎ参りましょう。しかし、いくらリーフ殿がお小さいとはいえ、この馬に二人で乗るのは無理がありましょうな・・・。それに、久々の街、この格好では不都合・・・」

そう言うと、着ていた緑のベストから、皮で包んだ何かを取り出した。


ベイドがその包みを開けると、茶色の塊があって、それをナイフで削いで一口食べる。

「ううう・・・ぐぐぐ・・・」

息苦しそうなうめき声をあげてうずくまるベイド。

「大丈夫?苦しいの?お水いる?」

リーフが声をかけて背中をさすると、ベイドはクルリと振り返りリーフを抱きしめた。


「ベイド・・・?」

「少しの間、こうすることをお許しください・・・」

ハアハアと荒い息づかい。苦しそうだ。

数十秒の後、白い煙がベイドの体から上がった。

「えっえっ?」

リーフがオロオロしているうちに、煙の中から人間が出てきた。

白い肌、優しい緑の瞳、力強い体、長く延びた栗色の髪の男。


「だれっ?」

さっきまで自分を抱きしめていたのはシロクマのベイドだったはずである。

そして今、自分を抱きしめているのは栗色の髪のイケメン・・・・。


「ベイドさん?!」

ベイドはニッと笑った。アワアワするリーフを面白そうに見る。

「さあ、参りましょう!お聞きしたいことがあれば馬上で伺います!」


人間になったベイドは、茫然とするリーフをひょいと抱えて馬に乗せ、身軽になった自分もリーフの後ろに飛び乗った。




「そういえば、昔はお城でブルー王に仕えていたって聞いたけど、、、。人間だったんだね、ベイドさん。」

いよいよ下り道になった雪山を一行は進んでいる。雪に音を吸い取られて静かな山道、リーフは馬に揺られながらベイドに話しかけた。

「実は、私自身もどちらか分からないんですよ。赤ん坊のころにシロクマの姿で捨てられていて、5歳のころに人間になりましたから。」

凄いことをカラカラ笑いながら言う。

「私は、今は亡き先代の王にこの雪山で拾われ、育てられたのです。人の言葉が分かる獣として、大事に育てていただきました。我が命あるのは我が王の慈悲のおかげ・・・」

「どうして人間になったの?」

「どうして・・・といいますか、偶然だったのですが、私が5歳のある時、王が非常に珍しい肉を与えて下さったのです。それを一口食べたところ、先ほどのように人間になりました。

私自身はシロクマの姿の時でも人の心は理解できておりましたので、違和感はありませんでしたが、王は大変驚かれたようです。」

ベイドはさも楽しい思い出のように語った。


「この世界には変身する人がたくさんいるんだなぁ。ベイドさん、ジャック、ララ、クルクル・・・。

あ、クルクル!!」

リーフは突然思い出した。

「そういえばベイドさん、クルクルはどこ?!」


「森の大賢者殿ですか?すぐ後ろにいらっしゃいますが」

「え??」


振り向くと、マントを全身すっぷり被った細身の青年が馬に乗ってついてきていた。

リーフの視線に気づいた青年は頭のフードを取る。


てっぺんだけ金髪のくせ毛、間違いなくクルクルだが、最初に出会ったころより随分育っている。

髪は腰まで伸び、もう二十歳ぐらいの大人に見えて、雰囲気も落ち着いていた。


「やあ、リーフ。やっと気づいたね。」いたずらっぽそうな表情はそのままでニッコリ笑う。


「クルクル・・・だよね?どうしてそんなに大きくなったの?!」


「キミと愛し合うために。ボクも赤のドラゴンの欠片を宿しているからね。」

リーフの太ももにある妖精の紋章が熱く疼いた。


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