第65話 トウメイ湖

雪の山を興奮した馬は暴走する。


必死にしがみつくリーフ、しかし馬の脇腹を足できつく挟んで締め付けてしまい、かえって馬は走り続けてしまうのだった。


「止まって!止まってよう!!」


大声で叫ぶが馬の耳には入らない。しかも雪が強くなり前方が真っ白にしか見えなくなった。


ブルー王は馬に飛び乗り、リーフの馬を追いかける。数人の家来も後に続いた。


ブルーが乗る馬は鬣も肌も金色に見える美しい馬で、美しいだけでなく俊足の名馬だ。

またたくまにリーフの馬の後ろに着いた。


「ブルー王!」振り向くリーフ。この際、とりあえず助けてほしい。


「このすぐ先は湖だ!氷が張っているがまだ薄い!早く馬を止めろ!」


「止め方がわかりません!!」


「手綱をっ・・・」


その声を聞いたか聞かないかのうちに、リーフの馬はドンッ!と横滑りした。


堅い地面に放り投げられる。バリバリと音のする方を見ると、乗っていた馬が上半身だけ出して暴れていた。


「えっ・・・?」


馬は、氷の割れた隙間に沈んでいる。悲しい鳴き声が響く。


「ここ・・・」

ガクン、と体が沈んだ、と思うと、右肩まで氷水に使っていた。

バリバリ・・

リーフの周りの氷が崩れる、と同時にリーフは氷の水の中にいた。

ここは山の湖、トウメイ湖だった。


「たすけ・・・」


「リーフ!」


誰かの声だけ聞こえる。目に入るのは水と氷の板。体は冷たさよりも、針で刺されたような痛みを感じた。


どんどんどんどんリーフは沈んでいく。

手も足も堅くなって動かせなかった。


(こんどこそ・・・ボク死ぬのかな・・・・・)


耳鳴りがして、静かになった。心臓が痛い。蒼く暗くなる・・・・


目を閉じようとしたとき、太ももに暖かいぬくもりを感じた。

妖精の婚印のあたりだ。



その瞬間、リーフの周りが明るく光った。

とても暖かい光だ。


キラキラ光るリボンのような光がリーフを包む。


リーフは右手を伸ばした。その手を、誰かが握った。


「マーリン・・・?」

マーリンかと思ったが、すぐにその顔はララに変わった。女の子だった。

「ララ!」


嬉しくなって抱きしめるリーフ。


ザバっ



リーフは湖の岸に引き上げられる。

リーフを抱き上げ助けたのは、ブルーだった。


「早く体を温めないとまずいな」


ブルーが濡れたリーフの服をナイフで破り、脱がせる。

部下たちがテキパキと薪と、簡単なテントを設えた。


ブルーの毛皮の上に裸になったリーフ寝かせて、乾いた布で体を隅々まで擦りあげる。


「これか・・・」

ブルーはリーフの太ももの妖精の婚印を見つけた。


「湖に落ちて氷の床に阻まれたとき、リーフはも死んだと思ったが・・・。湖の中から明るい光が現れて、リーフが浮かんできた・・・。きっと妖精に守られたのだろう。」


いつの間に付いてきたのか、心配そうに二人の周りをクルクル回るクルクル。


リーフの唇はまだ青く震えている。


ブルーは自らも服を脱ぎ、裸でリーフの肌を温めた。



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