第62話 ブルー

「い・・・いえ・・・」

リーフは驚きすぎてこれしか言葉が出なかった。


ブルーは静かな表情を変えることなく、リーフのほうに近づいてきた。

「お客様、申し訳ありません。このように布の多くが汚れてしまったので、すぐに洋服を仕立てて差し上げるのは難しくなってしまいました。」


見ればわかるしあなたは何者ですかとリーフはツッコム(怖いから心の中で)。

この状況からするとブルーは、相手が5人でそれを10秒以下で殺したことになる。

(もしかして、こんな現場を見てしまったボクもやばいのか・・・)


リーフの笑顔がひきつる。しかし不思議なことに、クルクルはブルーにまとわりついてなついていた。


「あ~じゃあ、ボク、やっぱり服はいいです!そろそろ宿屋を探さないと!ではっ!」

君子危うきに近寄らず、三十六計逃げるに如かず、である。

そそくさと店を出ようとすると、


「お待ちください、リーフ様!」

「え?」

ドキッとするリーフ。

「それではこうしましょう、試作で作ってある服が何着かございますので、サイズは合わないかもしれませんがお安くお譲りいたします。」

リーフはドキドキして迷ったが、下手に断るのも怖いので

「・・・はい、お願いします。」と言った。それに、

「あのう、ボク、名前言いましたっけ?」


気になることを聞いてみた。だって名乗った覚えが全然ないから。


ブルーは涼しげな笑顔で答えた。

「この子が教えてくれたんですよ、ねえクルクル。

他にも、たくさん・・・・。リーフ様のことを。

さて、洋服はどちらになさいますか?

男の子用?女の子用?」


リーフは背筋がゾッとするのを感じた。



「お・・・、男の子用で・・・。」

「かしこまりました」


リーフは再び小部屋に連れて行かれる。嫌な予感しかしないので、一刻も早く逃げ出したかった。

「いくつか見繕ってまいりますので、こちらでお茶でも飲みながらお待ちください。」

なにやら紅茶のような飲み物を出される。あったかそうで美味しそうだったので、怖いながらもつい飲んでしまった。まあ、普通に美味しい。ドキドキしていたので味はあまり感じなかったが。


クルクルはのんきそうに丸まっている。

(クルクルが話したって、どういうことなんだろう。人間になった気配はないし・・・。

もしかしてブルーさんは動物の言葉が分かるのかな?)

勝手のベラベラしゃべった(らしい)クルクルには腹が立つが、今は一人ぼっちじゃないのが心強かった。


(大丈夫、服を買ったら外に出られるから、うん、)


「おまたせいたしました」

微笑みを絶やさないブルーが持ってきたのは、色とりどりのドレスだった。


「えっ、それ、ボク男の子用を…」


「これでいいんですよ」


ブルーはリーフの腰をとると、壁に押し付けてキスをした。

今のところ男同士である。


「!!!」


「女になりなさい」


唇が離れた瞬間、体中の力が抜けて、床に倒れた。

意識はあるのに体が動かない、金縛りのような状態だ。

体の上をシルクの布が優しく這いまわる感じと、お酒を飲んでボーっとした感じがした。

息が熱くなる。


どこまでも深いプールに飛び込んだら気持ちいいだろうな、と朦朧としながら考えていた時、

ブルーがリーフの腕を引っ張って、倒れていた体を起こした。


「うん、これが邪魔だね」

リーフが今着ている薄い服を引き破る。


「綺麗だよ、リーフ」

裸にされたリーフの体は女の子だった。

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