第51話 白銀の鎖

「・・・しかし、ララはあまりにも愛らしく、母も父も何らかの理由で呪いが解けたために、女子が生まれたのだと思おうとした。

が、ララが3歳の時、事件が起きた。

母と父が外交のためにツルギの国に行き留守だった時に、ララが誘拐されたのだ。


国を挙げて血眼になって探し、ララを見つけたのは2週間後だった。

密室に10人の狂人と閉じ込められていたらしく、だれもララの無事を信じていなかったが・・・。」



ソフィアが続ける。

「わたくしは捜索に関わっておりましたので、その光景を見ました。

24年経ちましたが未だに鮮明に目に焼き付いております・・・。


夕方でした。森の奥の隠された城、ララ様が監禁されたとされる堅い鍵に閉ざされた扉を、祈る思いで開けたのです・・・。

幼いララ様は、部屋の真ん中にひとり座っておられました。

もの凄い匂いがしました・・・。


夕日が部屋の中を照らして、真っ赤な光が、真っ赤に血に染まった光景を映し出しました。

何人かわからなくなった死体の山の上に、微笑むララ様が座っておられたのです・・・。


ララ様は狂人たちを喰らっていたのです・・・!」

リーフは息をのんだ。


「その光景を見て、王妃様は夕日が沈まぬうちにララ様を白銀の鎖で縛りました・・・。

毎夜王様をそうしているように・・・。その時のララ様の悲しそうな瞳・・・!

白銀の鎖は夜の悪魔を押さえることができるのですが、大変な苦痛を伴うそうです。


その夜が初めてでした・・・、男・・・獣のような悪魔と化したララ様を見たのは。」


「悪魔の呪いがそんな形で・・・」

可愛そうなララ、とリーフは思う。

本当なら、あんなに可愛らしい女の子なのに。


「あの日から毎晩、お優しいララ様は苦しんでおられました。

鎖を使えば鎖の苦痛に、使わなければ内なる悪魔に苦しんだのです。

お生まれになった時からお世話申し上げておりましたわたくしは…お可哀想で・・・ただ辛く・・・。


それが・・・リーフ様のお力で・・・。」


ソフィアはまた泣き始めた。嬉しい、と泣いている。


「えっ、じゃあ、ララは・・・!」


「そうだよ、リーフ。

お前のおかげで、私同様ララもまた、呪いが解けて夜の間も本来の姿に戻ったのだ。

おまえが目を覚まさなかった二晩の間も、ララはララのままだったんだ。」

マーリンは微笑む。


「ほんと?!ララに会いたい!ララに会わせて!!」

リーフはたまらずイスから立ち上がった。

ララの笑顔を今すぐ見たい、と心から思った。


これが初恋、これが一目ぼれなのだろうか。


ララが元に戻った今、今度はボクが守ってあげたい。

また二人で川沿いを手をつないで歩きたい。



「慌てなくともよい。ララはもうすぐ、お前に会いに来るはずだ。」

「ララが・・・」


リーフの胸はドキドキして熱くなった。息が苦しい。

あの白く細く、いい香りのする体を、たまらず抱きしめてしまうかもしれない・・・・。

赤くうるんだ唇を想像しただけでも顔が火照ってしまう。


「ララ様をお連れいたしました。」

兵士のその声に振り向くリーフ。


ララが立っていた。


が。


「兄上!」



(あにうえ?)


兄上とな。



そこに・・・リーフの目の前に歩み寄ってきたのは、


大変立派な





ララ王子だった・・・・・。




「え・・えーーーーーーーっ!!」



仰天するリーフ。美しくうねった銀髪、ヒスイの瞳は同じだが、

獣のようにたくましい体にりりしい顔立ちは、あのララと正反対である!



「リーフ、君にはどんなに感謝しているか。私の呪いがようやく解けたのだ。

呪われた女の姿から、昼間も本来の男の姿に戻ることができた。」


ララは膝まづいてリーフの手を取る。


「いやいやいやいや、まってください、呪われていたのは夜の男の姿のほうじゃ・・・」


「リーフ、我が一族には女子は生まれぬ。女の姿こそ、100人目の魔女の裏切りの呪いだったのだ。」

とマーリンは言った・・・・・・。

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