第15話 黒いヒヨコ



さて、大ちゃん改めリーフ。


これからどうしたものかと急に冷静になって考え始めた。

考え始めると二日酔いの頭が痛い。


「う~ん・・・」

「トイレならあっちよ」


ハルさんが見当違いな気を使ってくれたので、愛想笑いで返す。

ああでも、トイレに行くのもいいかもしれない。


「じゃあ、ちょっとトイレお借りします」

「ついていってやろうか?」と言ったのはアーサー。


「いやマジ結構です」


ふらふらとよろめきながら席を立つ・・・何か忘れているリーフ。

視界がぼやけるのはお酒のせいだけじゃなくて、メガネがないからだ。


「あっ、アーサーさん!ボクのメガネ知りませんか?!」

「メガネ?」


リーフは親指と人差し指でメガネの形を作って顔にかけてみせた。


「ははっ、ああ、あれね。うん、拾ってたんだけど、夕べ酒飲んでるときに綺麗な女騎士が

譲ってくれって言ってきたから、

あげちゃった」




「えええええっ~~~~!


「あれがないと、すごく困るんです!ぼく何もできなくなっちゃう・・・」


泣きそうなリーフ。涙目でアーサーを睨む。




「心配するな。オレが助けてやる」


そう言ったジャックをアーサーとハルさんが驚いて見た。


「ジャック、どうしたんだお前・・。人間の、しかも女にそんなに優しくするなんて・・・」


「・・・気に入ったんだ、アーサー。この子をオレにくれ。」



「はい?」 リーフは新たなピンチを感じた。



「・・・似てるんだ・・・・」

ジャックは語り始めた。




その昔、ジャックがまだ少年だったころ。


ある日、巨大老木の近くを飛んでいたら、一つの金の卵を見つけた。


あまりに綺麗だったのでジャックはその卵を持ち帰り、来る日も来る日も温めたという。


すると100日後、卵から1羽の可愛らしい黒いヒナが生まれた。


ジャックは家族もなく、ずっと一人だったのでヒナをとてもかわいがり、一生懸命育てた。


ヒナもジャックにとてもなついて、スクスクと大きくなっていった。



「・・・が・」

ジャックは深刻な顔になった。


「もしかして・・・死んじゃったの?」

心配するリーフ。


「いや。」



スクスクと大きくなったヒナは、さらにスクスクと育って育って・・・あっという間にジャックを追い抜いて、

超巨大な黒鳥に成長したのだ。


「・・・あいつはブラックファイヤードラゴンだったんだ・・・・」


「あっ、知ってる!」それはゲームにも出てきて、鳥の母とドラゴンの父を持つ強いキャラだった。


「でもたしか・・・、成長したら火山でしか生活できないから、仲間にはならないんだよねぇ。」



「よく知ってるな・・・」ジャックは少し感心した。

その鳥はある朝突然いなくなってしまったという。


「で」

「ボクは誰に似てるの?」その話の登場人物は、ジャックさんとヒナしかいない。


ジャックは懐かしむような、愛おしむような瞳でリーフを見つめた。


「ま、まさか・・・・」



まさかである。

黒くて(髪)、目が真ん丸で、おなかをすかせてピヨピヨ可愛らしく泣いていたヒナ・・・・に、

リーフはそっくりだったのだ!



「ええっ!ヒヨコに?!」


ジャックはたまらずリーフのヒヨヒヨした頭をなでる。

アーサーとハルさんは肩を震わせて笑いをこらえていた。

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