査定

 電力車から電気を引っ張るには距離があり、値段が張るとのことなので、ユキヒメ達と割り勘で発電機を借りることにした。

 水は汲みに行けば良い。ナイロン製の折り畳みバケツは開拓者の必需品だ。ケイジ達も勿論持って居る。


「場所、電気、水、簡易マップもくれてやったし、ルールも説明した。……他に何か気に成ることはあるか?」


 くるくるとペンを回しながら生白。


「ここに来る前に新入り狩りに会ってよ。内何人かに賞金が掛かってるみてぇだったから持って来てんだ。換金ってどこでやってくれんだ? この街、開拓局の支店ねぇだろ?」


 正式な街じゃねぇから。


「……そいつらの手配書は?」


 今持ってっか? そんな視線をユキヒメに向けると、言われなくても、とでも言う様に彼女がバックから数枚の手配書を取り出した。


「こちらで確認できているのはこの五名ですわ。ですが、随分お慣れていましたので――」

「他にもいる可能性が高い、と。何人だ?」

「四パーティ、二十四人だな」

「そうか。それで……死体は?」

「最後に確認した時は二十だ」


 因みに二十時間程前だぜ、とケイジ。

 その後は知らない。手足は縛ってあるから減っていることは無いだろう。運転は遅く、丁寧だったが、それでも腐った仲間の死体に潰されていないとは言い切れないし、傷が元で死んでいるかもしれない。クスリ漬けの奴も居る。


「この手配書はこの辺の有力者たちで出したモノだから換金の担当はウチだ。だが……死体が二十か……」


 生白が嫌そうに眉を寄せる。まぁ、この気候だ。しかも閉所に詰め込まれている。死体袋に入れてはいるが、早い。どうなっているかなどと言う想像はあまり楽しいモノでは無いだろう。


「まぁ良い」


 言って生白がテントの奥に向かって手を挙げると、熊の獣人がやって来た。体格が良い。種族として始めから強い。そう言う種類の生物だ。

 熊と生白が一言二言話すと、生白が熊の背中をバンバンと叩いた。熊がのっしのっしとケイジ達の下へ着てにっかり笑った。


「どれ坊主ども、儂が見てやるから案内せい」






 ロイがハンドルを握っていたので、死体運搬車は当然、ケイジ達の車の所にある。

 そしてケイジは一応、新入りの礼儀としてキャラバンタウンの端の方に車を止めた。距離がある。遠い。そのことを知った熊が車を出すと言ってくれた。


「すいません。有り難いのですが、私達はブルーからイエローに移ることになりますので車の移動ついでに……」

「ケー。そんじゃ現地集合……って言っても場所わかんねぇよな? リコ!」

「おけおけです。ユキヒメちゃん、わたしも一緒に乗せてって。ナビるよ! 超ナビるよ!」


 きゃぃきゃぃとじゃれる様にユキヒメの手を取ってリコ達が去って行った。それを見届けてから、ケイジは熊の用意したジープの助手席に、どかっ、と腰を下ろした。


「おっさん、出してくれ」

「一気に男臭くなってしまったの!」


 何が楽しいのか、ガハハーと笑って熊が鍵を回した。エンジンが回る。


「ゴロウだ」

「ケイジだ。……熊でゴロウって狙いすぎだな、オイ」

「おぉ、それは儂の鉄板ネタだ。熊のゴロウです。クマゴロウではありません! ってな!」

「そうかよ。そいつぁわりぃことしたな」


 使う前に言っちまって。

 ケイジはユキヒメが置いて行った手配書をめくる。取り敢えず確定している五人とは別に居なかったかを確認する為だ。


「坊主、何か目印は?」

「あー……一応、川の跡っぽい所の傍に停めたぜ。方角はあっちだ。あの尖がった岩がある方」

「ふむ? あの方角で川の跡……何となくわかった。近づいたら詳細な案内を頼むぞ」

「あぁ、分かってるぜ。……言っといてなんだが、今の説明で分かるもんなん?」

「そうでなければ地図屋は出来んさ」

「このオアシスだけじゃねぇんだよな? おっさん、開拓者以外の才能があるんじゃね?」

「それに気が付く前に呪印を彫ってしまったからの!」

「ヤァ。ままならねぇ人生って奴だ。悲しいね」


 各言う俺も戦いに向かない優しい性格なのに呪印を彫ったせいで今ではこのザマさ、とケイジが言うと、ゴロウがハンドルを握ったまま、肘鉄をしてきた。地味に痛ぇよ。ケイジはやり返した後、手配書に目を落として行った。


「……酔うぞ?」

「お父さんかよ」


 ツッコミは入れるが、視線は上げない。寧ろ見覚えがある気がする奴だったので、凝視する。


「熱心にみておるがの、半分以上は白だと思うぞ?」

「ヘェ? そう言うもん?」

「そう言うもんだ。こいつらはスカベンジャーとの兼業の賊だ。そして換金部隊の方が数がいるからそう言う奴は多く確保している。換金する為には街に入る必要があるからな、賞金首にはなれん」

「詳しいじゃねぇか。友達?」

「賞金が掛かるとな、仲間に売り飛ばされることもあるのだ」

「……友情って言葉とかが信じられなくなりそうだ。んでテメェらはそう言った裏切られた可哀想な賞金首サンに優しくそう言うことを訊き出したってわけだ」


 ケイジの言葉にゴロウがそう言うことだと肩を竦める。


「そもそも襲撃時にも奴等は顔を隠しておっただろう? そんな中、何故か顔を晒している連中がいて、ソレを見て生き残った奴が報告する。そうしてその報告が多く成れば晴れてソコに乗ると言う奴だ」

「……ヤァ。何だよ、こいつら選ばれしアホのエリートって奴じゃねぇか」


 銃手の連中ですらゴーグルやスカーフで砂を避けつつ顔を隠していたと言うのに、面が割れていると言うことはゴロウの言う通り襲う時にわざわざ顔を晒していたということだ。

 スキンヘッドが正面拍子を飾って居たので納得だ。ケイジはあほらしくなったので、ダッシュボードに手配書を放り投げた。






 死体運搬車はケイジ達の車から少し離れた場所に停めてあった。

 荷物の脱走の恐れはないが、車両盗難の恐れはある。

 だから見張りが必要だが、死体袋の密閉は完璧ではない。当然、匂う。匂うので鼻の良いガララは見張りに立とうとしない。そして同じく荷物整理しているアンナが見張りに立ったとしてもカモにネギを持たせる様なものだ。車強盗は車と女を手に入れてウハウハだ。

 そんな訳で匂いを気にしないで、戦闘能力があるレサトが見張りに立っていた。しっかり見張りをしていたレサトは近づいてくる不審車両に向けて両鋏と一緒に中のSMGの銃口を向けて来た。


「……坊主」

『レサト、俺だ』


 返事をする代わりに通信コール。受け取ったレサトは車の上からぴょん、と飛び降りてケイジ達を出迎える様によってきた。


「何か問題あったか?」


 ケイジの問い掛けに、レサトが砂の山を指す。何やら盛り上がって居て、動いて居る。既に泥棒が居たらしい。見晴らしの良い砂漠への対策として砂を被って進んでいたのだろうが、文字通り人外の感覚で世界を感じるレサトにはあまり関係ない。一方的に車上からSMGを浴びせたのだろう。呪印のガードで死んではいないが、既に動けない程度には痛めつけられているらしい。


「止めや回収は?」


 ×を造って、車を指して、分かるだろ、おらぁん! と鋏が振り下ろされた。見張りを優先したと言うことだろう。まぁ、その判断は正しいわな。そう思ったので、ケイジは「ご苦労さん」とレサトを労った。


「おっさん、賞金首の中に絶対生け捕りじゃねぇとダメって奴、居たりする?」

「居ないな」

「そうかよ」


 ゴロウの回答が車泥棒の未来を決めた。レサトがSMGを撃ち込み、ケイジが歩いて徐々に近づきながらSGを撃ち込んでいく。動かなくなる砂山。それでもケイジが念の為に最後の三発を撃ち込んで弾倉を空にして、次の弾倉に素早く入れ替える。箱型弾倉のSGはこう言う時の繋ぎが少なくて良い。「……」。ジャムって無いかの確認も含めてもう一発。砂が散るだけで動きが無いことを確認した後、ケイジが砂山を蹴り飛ばすと三人の男だったモノが転がった。顔の判別は出来そうだ。


「おっさん、確認三人追加だ!」


 言いながらケイジはタクティカルベストを引っぺがし、銃器も頂戴する。ズボンのポケットを漁ろうかとも思ったが、大したものは無さそうなので放置で良いだろう。と、言うか血でべっとりしていて触れたくない。自分のSGを使いたくなかったので、貰った銃器の中で一番安そうなARで死体を転がし、確認し易い様に仰向きに転がしておいた。


「残念だな、坊主。無い」

「まぁそこまで美味くはねぇわな」


 ゴロウの言葉に、別に期待はしてなかったぜ? と笑う。


「……そういやよ、コレもだが死体はどうすんだ?」


 ヴァッヘンだとこういう馬鹿の死体は伝染病を避ける為に燃やされる。パッチェだと沼行きだ。放り出しておけば無駄に力強い生態系が直ぐに分解してくれる。体液をストライダーが吸うので直ぐにからっからになるのが大きいのだろう。


「服は剥がんのか?」

「そこまで金に困ってねぇよ」


 こんな服や鎧は着たくない。洗いたくない。だって孔空いてる。あと、サイズが合わない。


「そうか。では金に困ってる連中に知らせてやれば服は剥いで貰えるだろ」

「ここに居る連中にそんな奴居るの?」

錆ヶ原ここは儲かるからの。夢を抱いて運悪く辿り着いた様な奴等もおるのだ」

「あぁ、成程」


 錆ヶ原ドリームと言う奴だろう。

 開拓者を続けることが出来なくて、本格的なスカベンジャーをやることも出来ない。それでも生きて行かなければならない連中のお仕事と言う訳だ。


「剥いた後はどうしたら良い?」


 ケイジの問い掛けにゴロウが空を指す。見上げると三匹の鳥がくるくる旋回していた。


「三つ首カラス。どこも売り物には成らんが、エサが豊富なせいで増えすぎておってな。十匹で銀貨一枚と換金だ。その際には右足を持ってこい」

「首が三つとか……何、フードファイトにでも特化してんの?」


 賞金が出ていると聞いて銃口を空に向けるレサト。そんなレサトを、止めろ、とブーツで小突く。不満がある様で威嚇して来た。生意気だ。「弾がもったいねぇんだよ。りたきゃ鋏でれ」。そう言っておいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る