第39話

目が覚めると後頭部に柔らかい感触があった。




何かこんなん前にもあったなぁ……






「ん……」




目を開けるとセリィの顔が見えた。


うん、やっぱり膝枕だ。


それとここはテントの中かな?






「気がついた? 良かった……」




セリィは俺と目が合うとホッとしたように胸を撫で下ろした。


いつからこうしてくれていたんだろう?






「俺は何日ぐらい寝てた?」






「んと、3日くらいかな……?」






「3日間ずっと膝枕してくれてたの?」






「流石にずっとじゃないわよ。でも大半はこうして目覚めるのを待ってた」






「心配させたね。ありがとう」






「こちらこそ、助けてくれてありがとう。アルはもう世界を救った救世主として世界中で神様みたいに感謝されてるよ」






「えぇ……俺もう神様じゃ無いんだけどなぁ……」






「私にとっては神様みたいなものよ……」




セリィは顔を赤らめ、どこか違う方を向きながらそう言う。






「え?」






「アルは小さい頃からずっと私と一緒にいてくれた。私を外に連れ出してくれた。おかげで友達が出来た。一緒に冒険してくれた。危ない時もあったけど助けてくれた。レインが好きって言った時も応援するって言ってくれた。私、アルにしてもらってばっかりだ……」






「そんな事ないよ。セリィにはいつも元気をもらっている。親と離れた時寂しかったけどセリィがいたから楽しく過ごせた。セリィがいてくれたおかげだよ」




俺は起き上がる。


そして、セリィの肩を掴んで真っ直ぐ目を見てそう伝える。


紛れもない本心だ。






「アル……」




セリィは少し涙目になった。


そして、俺にキスをした。






「んっ……」




突然の事で頭が真っ白になる。


え!? セリィはレインが好きなんじゃ……!






「大好きよ、アル。ずっと一緒にいてくれてありがとう。これからも……一緒にいて欲しい……です」




セリィは真っ赤になった顔を隠しながら恥ずかしそうに言った。




俺が言うことはもちろん一つだけだ。






「もちろん!」




俺は全力の笑顔でそう言い、セリィを抱きしめた。


セリィはガチガチだった体の力が抜けていく。






「……本当?」






「ああ、本当だよ。さぁ、皆に会いに行こう。着いてきて」






「うん!」




俺達はテントを出た。


すると、目の前は人で賑わっており、男性は街の復興を、女性は食事作りをそれぞれ頑張っていた。




しばらく街を歩いているとフロウとナージャがいた。


二人も復興の手伝いをしているみたいだ。






「おーい、フロウー、ナージャー!」






「おー、アル。もう大丈夫なのか?」






「ああ、バッチリだ! ほらこの通り!」




俺は力こぶを作って元気アピールをした。


正直言って体中が痛いです。


筋肉痛の上の上くらい。






「あ、これでアイギス皆揃ったし王宮に行こうか。アルが起きたら来てくれって言われてたしね」




ナージャがそう言うので俺達はそのまま王宮へ向かった。


王宮は門が開いていて自由に出入り出来るようになっていて、結構人がいた。




流石に謁見の間周辺は誰もいなかったが。


謁見の間には既に勇者パーティーと魔王とその幹部がいた。






「おお、アル! この世界の救世主よ!」




国王陛下が大袈裟に歓迎してくれた。


何か裏がありそうで怖いくらいニコニコしてる……






「えっと、僕に何か御用が?」






「用も何もお主はこの世界を救った救世主だから報酬を渡したいのと報告があってな。どっちからが良い?」






「じぁ報告からで……」




報酬はまぁ後で考えよう。


報告はよく分からないな……






「分かった。まぁお察しの通り俺達人間は魔族と平和協定を結んだ。だからもう迷宮攻略は必要ない。魔物は倒してもらわないと行けないがな」




全然お察しじゃねぇよ!!


平和協定は分かってたとして俺リストラ!?






「それで報酬何だがお主に領地と金をやる。この大陸で一番豊かな土地だ」






「……ん? 失礼ですがもう一度……」






「だから金と領地をやる」






「……」






「はああああああああぁぁぁ!?」




俺は立ち上がり、大声をあげる。


は? 領地? という事は俺貴族!?




待って思考が追いつかない……






「ちなみに拒否権はない。というか手続きは済ませてある」




手続きが済んでる?


何言ってんだこのオッサン!?






「今日の夕方に馬車が来るから準備を済ませていてくれ。後お前の家族とセリーナの家族にはもう伝達してあるから待っているだろうな」




いや待って俺が寝てる間に話進みすぎじゃないか?


もう少し俺の意見をだな……






「じゃ、謁見は終わりだ。詳しい事は向こうに着いたら連絡する。ちゃんと準備しておくんだぞ」






「え、まだ俺行くとは……」






「いいじゃんアル、貴族になれるんだよ? さ、行こう!」




セリィは笑顔で俺の手を取り謁見の間から出る。


何かノリノリだけど……






「セリィも来るの?」




俺は荷造りをしながらセリィに聞く。


セリィも荷造りをしてるんだし、まぁ来るんだろうけど。






「行っちゃダメ?」




くそ、可愛い……


涙目上目遣いは反則だぁ……






「いや、来て欲しいかな……はは」




何かもう行くことになっちゃったよ。


まぁグダグダ言ってないでそろそろ覚悟を決めるか。




俺はその領地でセリィと幸せに過ごすんだ。


世界一豊かな土地にしてやる。






「アルもセリィも行っちゃうんだね……何か寂しいな」




皆は俺達の見送りに来てくれた。


ナージャはセリィの手を握ってそう言った。






「好きな人と一緒にいたいって気持ちはナージャも一緒でしょ? それにまた会えるよ」




ん? ナージャの好きな人?


え? まさか……!






「フロウ!?」






「今気づいたの!? 少しだけ一緒にいた俺でも分かったぞ?」




レインは当たり前だと言わんばかりに頷いている。


何? 皆気づいてたの? 知らんかったの俺だけ?






「アルも気づいてると思ってたよ。まさか知らなかったとはな……」






「まぁナージャと幸せにな。俺達は遠くに行くけどいつでも会いに来てくれよな」




俺はフロウの手を握った。


いやぁ、まさかなぁ……知らなかったなぁ。






「ありがとうアル。お前こそ幸せにな。ここの復興が終わったら俺達もお前の領地に住もうかな」






「はは、そうなったら一等地をやるよ」






「そりゃありがたいな。じぁ元気でな」






「ありがとう」






「アル、お前は凄いやつだよ。勇者の俺が何もできなかった。まだまだ鍛えてここの騎士団でこの国を守ることにするよ」






「そんな事ないよ、レインは本当に凄い奴だ。だから自信を持て。お前がいればこの国は安全だ」






「ありがとう。また遊びに行くよ」






「おう! 皆ありがとう。何かなし崩し的に貴族になったけどいい貴族になれるように頑張るよ」






「アルバート・シュタイン様、そろそろ……」




すると、馬車から執事の様な格好の人が出てきて馬車の扉を開けた。


そろそろ時間か……






「じぁ皆元気でな」




そう言って俺達は馬車に乗った。


ふぅ、今日から俺は貴族か……






揺れる馬車の中でセリィは窓から顔を出し、流れる景色をぼんやりと眺めている。






「セリィ、俺達貴族になるんだよな?」






「えぇ……慣れないことばっかりだろうけどちゃんと私がサポートするわ」






「ありがとう。どうなるか分からないけどずっと俺に着いてきてくれるか?」






「……それって?」






「あぁ、プロポーズだ。一生幸せにするって約束するよ」






「嬉しい……一生着いていくわ、旦那様」




旦那様とか言われると照れるなぁ……


よぉし、やる気でた!


絶対に幸せな家庭を築くぞおお!!




しばらく馬車でセリィと楽しく過ごしていると馬車が止まり、扉が開かれた






「旦那様、奥様、着きました」




何故言い方を変えた。


お主、聞いておったな!?




あ、ニヤニヤしとるぞこいつ。


くっそぉ、恥ずかしい……






「アル!!」




扉を開けると目の前に父と母が待機していて、俺が降りるとすぐに抱きついてきた。


隣ではエリアス家のお二人がセリィに抱きついている。






「お、お父さんお母さん。苦しい……」






「おっとすまない。お前良くやったな! 流石俺達の子だ!」




父は、はっはっはと笑いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。


痛てぇよ、力強すぎ……!








「しばらく見ない間にこんなに大きくなって……」




母は涙ぐんでいる。


大事にして貰えてるって分かって嬉しいな……






「で、式はいつ挙げるんだ?」




わお、直球で聞いてきたな。


でも俺達まだ10歳なんだよなぁ。


あれ? この世界って結婚年齢とかってあったかな……?






「でも俺達まだ10歳ですし……まだ早いかなーって」






「何言ってんだ? 結婚に早いも遅いもねぇよ。政治は15になるまで俺達親で手伝うが結婚は自由にしろよ」






「では政治が落ち着いたら……」






「私はいつでもいいわよ、アルの好きな時で」




すると、セリィがこちらに歩いてきてそう言う。


後ろからミラお母様とボレアスお父様も歩いてきている。


ボレアスお父様の迫力が……






「アル、娘を幸せに出来るんだな!?」




予想通りボレアスお父様は俺の肩をがっちり掴んでそう迫る。


怖えぇ……マジでぶん殴られそう……






「……はい。絶対に幸せにします!」




俺はボレアスお父様の肩を掴み返し、そう宣言した。


もう覚悟は決まっている。


この覚悟はもう揺るがない。






「……よし、それでこそ娘の婿に相応しい! 安心しろ、政治の仕方は私が教えてやる!」






「でもお父様、自身の領地は?」






「使用人だけで十分だ。何かあればすぐに帰るから問題ない。その時は転移魔法よろしく頼む」




転移魔法使うのね……


まぁあそこの領地は田舎だけど結構栄えてたしお父様の仕事ぶりは見てきたから彼が良い領主ってことは知っている。






「ではお願いします!」






「ああ! じぁ結婚式の準備だな!」






「話聞いてました!?」




それから数ヶ月後俺達は結婚式を挙げた。




フロウとナージャや勇者パーティーも誘った。


一番驚いたのは国王陛下が直々に俺の式にプライベートでやってきた事だ。


これには会場も騒然としてどうなるかと思ったがしばらくすると父が一緒に笑いながら酒を飲んでいたので安心した。






結婚式と同時に領民に挨拶をした。


ボレアスお父様にも手伝ってもらって政治をした。


俺も結構慣れてきたと思う。






「お仕事お疲れ様。はい、これ紅茶よ」




俺が書斎で書類整理をしているとセリィが紅茶を持ってきてくれた。






「ありがとう。いつも助かってるよ」






「いいのよ。私はあなたをサポートするのが仕事だもの」




セリィはエプロン姿でふふと笑い、ソファに腰掛ける。


俺は一度仕事の手を止めてセリィの隣に座る。






「愛してるわアル。私は今、幸せよ」






「……良かった。俺だって幸せだよ。俺、ちゃんと家族出来てる?」






「えぇ、ばっちりよ。流石はアルね。何でもできちゃう」






「はは……当たり前だろ? 何たって世界を救った救世主だからな!」

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