192-3.お兄ちゃんとして(シュライゼン視点)






 *・*・*(シュライゼン視点)








(……まったく、認めているんだか違うんだか)




 俺は今、カイルの屋敷に針子達を連れてやってきていた。父上が手ずから仕立てた……可愛らしいピンクのドレスの仕上げをするために。


 我が妹は、人生の大半を着飾ることなく過ごしてきたため、ドレスなどもまだ数回程度しか着ていない。が、自身とカイルの婚約披露のパーティーにはドレスが必要だ。これまでは、この屋敷のメイドらが仕立てていたらしいが……父上のわがままは国王と言うよりも個人のわがまま。


 けど、人生で一度の婚約パーティーだ。娘のためを思うと、それくらいしてやりたいと思う。


 俺の場合は、シャルへの衣裳も父上が針子達に頼んで仕立ててくれた。あれ以上の出来栄えである、我が妹のドレスは気合が入り過ぎていたが。



「こ、こんな綺麗なドレスを……お父さんが!?」



 チャロナを仕事途中ではあったが、見てほしいと彼女の部屋でドレスのほぼ完成形を渡してやった。


 当然驚き、そしてとても嬉しそうにしていた。



「うむ! 是非それをパーティーで着て欲しいんだぞ!! 針子達もだがメイミーらも手伝ってくれ」


「かしこまりました」



 と言うことで、俺は妹とは言えレディの着替えを見るわけにはいかないからと、カイルの執務室に行った。


 そこで、マックスについて驚くべき事実を知ったんだぞ!



「称号が外れた……??」


「全部が全部、チーちゃんのお陰よん!」



 あのよくわからない残念称号が外れたのは、我が妹の選んだ選択もだが……世界のためでもあったと。


 フィルド最高神のお言葉によると、チャロナの持つ異能ギフト……『幸福の錬金術ハッピー・クッキング』の負荷などをマックスが引き受けていた形だったそうだ。同じ世界でほぼ同時に死を迎え、年代は違うが転生させられ……マックスにはチャロナをカイルとは別の意味で支える存在にさせられていた。


 それらが意味を成した今となっては、必要がないからと最高神が直々にマックスのところへ来られたそうだ。



「……そうか。それはよかったんだぞ!!」



 冒険者として、まだまだ活躍して行くのならば、枷となっていたものが外れたのなら嬉しいことこの上ない。



「とりあえずぅ……あと五日後のチーちゃんとカイルの婚約パーティーへの準備は順調ってことね??」


「うむ!」



 俺とマックスが話し続けているが、カイルを見れば……涼しい表情のように見えて、耳が赤い。ここまで感情の表現が戻った従兄弟を見るのは……母上やチャロナがいなくなる前くらいか?


 チャロナのお陰もあり、随分と早い回復なんだぞ!!



「フィー達の婚礼も、カレリアの出産後だし……ま、ゆっくりでいいわねん??」


「そう言う君もかい??」


「今までデートとか出来なかったんだし、エイマーを貴族にするのもまだ早いわん。チーちゃんからパン作りを色々習っているんだもの」


「ある意味、我が妹の弟子……か」


「そうね??」



 ホムラではパンはまだまだ無理だが、マンジュウのレシピ普及は順調だそうだ。あの美味しいマンジュウが普及されるだけでもだいぶ違う。


 世界各国……特に同盟と友好国には優先的に広めているところだ。


 チャロナが得意とするパンも……アーネスト殿らの協力も加わって、きっともっと広まって行くだろう。


 お兄ちゃんも頑張るんだぞ!!



「大変お待たせ致しました」



 その後、メイミーが知らせてくれたのでチャロナのドレスの出来栄えを見に行けば。


 カイルが物凄い赤面になるくらい、似合いの衣裳となったんだぞ!!

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