169-2.未熟者(アーネスト視点)
*・*・*(アーネスト視点)
喜びも束の間とは、このことじゃわい……。
チャロナちゃんに今朝の食事で、フレイズが手がけたパンでそこそこ合格点をもらえたと言うのに……。
現実は、まだまだあの子が前世の世界で得た技術や知識には遠く及ばぬ。
彼女が儂やフレイズに、それらを改めて披露してくれたんじゃが……。
「パン作りには、まず何よりも『発酵』が大事です!! 熟成なども必要ですが、この世界のパンの場合は、その発酵の部分が重要になってきます!!」
「チャロナ嬢。それほどまでに?」
「むせたり、膨らまなかったり……味も悪いのであれば発酵と熟成が圧倒的に足りません!!」
「うむむむ……!?」
フレイズが唸るのも無理ないわい。
儂かて、チャロナちゃんの説明を聞いてもさっぱりじゃからの!?
「叩きつけるのも限度があります。生地に刺激を与えて空気を含ませる工程も必要ですが……皆さんが今まで加えていたのは、やり過ぎです」
「…………そうか」
「それに加えて、この
「はい。イーストや生地に適した温度……夏冬になると、余計に扱いにくいんですよ。イーストはある意味生きている食材なんです。与える温度によって、発酵はさらに変わります」
「「うむむむ〜〜……」」
こりゃ、一癖二癖どころの問題ではないわい。
やっと、チャロナちゃんにも認められてきたと思ったら……またどん底に落とされた気分になってしもうた。
パン作りもじゃが、料理は奥深い。
二百数年生きた儂ですら、何も及ばない知識と技術。
それが、転生で重ねてもたったの十七歳の人間の子に詰まっているのじゃ。
儂もうかうかしておれん!!
「チャロナ嬢、少しお願いが」
儂が闘志を燃やしていると、先にフレイズがチャロナちゃんに声をかけていた!?
「なんでしょう?」
「あちらの屋敷でも構わないのたが……私にも定期的に指導を願いたい。ほかの宮廷料理人達では、王女の手前だから気後れするだろうから」
「! わかりました!」
「儂も参加するぞぉ!!
「了解しました!」
とりあえず、聞きたいことはだいぶ聞けたのじゃが。
儂も知らぬ未知なる知識と技術の羅列ばかりで、急いでメモしたんじゃが……さっぱりわからん部分も多い。
もう一度、チャロナちゃんと確認を取ってから……彼女らは研究室から帰っていった。チャロナちゃんは城ではなく、あのカイルキアの屋敷で生活することを選んだ。
だから、陛下はいないが復活された王妃殿下と、王太子殿下と並んで歩く姿は。
二度とないと、思っていた幻が現実となったのじゃ。
友好国らに、その事実は伝達済みじゃが……王女となったチャロナちゃんの想う相手はカイルキアじゃ。
他国の思惑通りにはさせん!!
「……アーネスト殿」
見送っていると、隣にいたフレイズが感慨深いようなため息を吐いた。
「なんじゃ?」
「姫には……幸せになって欲しいと、改めて思いました」
「……そうじゃな。儂もそう思う」
陛下あたりは渋るだろうが……仮のではなく、本物の婚約者となればいいが。
それを互いに受け入れる状況になって欲しい。
儂は、切に願った。
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