128-5.記憶操作(クラット視点)






 *・*・*(クラット視点)









 待った。


 待ったって!


 月に二回しかないけど。それだけ開いてくれるチャロナお姉ちゃんがやってくる、差し入れの定例会。


 あと、お菓子作りがメインの教室!


 今度はなにかな、なにかなと明日を待つだけになってたんだけど。


 俺……すっごい秘密を知っちゃったんだ。


 院長先生の、マザー・ライアとシュライゼン王子様が院長室で話しているのを。


 ちょっと、マザー・ライアに用事があったから行ったんだけど。


 その時に聞こえてきたのが。



「我が妹……マンシェリーのためにも、俺は頑張るんだぞ」


「私もお力添えが出来れば」


「うむ。明日の定例会でも、いつもどおりにしてほしい」


「かしこまりました」



 マンシェリーって誰なんだろうって思ったけど。シュライゼン様に妹さんがいらっしゃるのが変だ。


 それに、あの言い方だと俺達も会ったことがあるような感じだった。


 だから、もしや!? って、覗いたところから見えた肖像画の部分とケーミィ達との話を思い出した。


 チャロナお姉ちゃんが、亡くなった王妃様にそっくりだって。



(……お姉ちゃんが、本当は王女様かもしれない?)



 けど、なんで?


 お姉ちゃんは普段公爵様のお屋敷で使用人をしているって聞いたのに……なんで、王女様かもしれないのにそんなことをしてるんだろう?


 全然意味わかんない!


 わかんなくて、俺は院長室から離れて廊下を走ったんだけど。


 誰かにぶつかったから、すぐに謝った。



「あんまり廊下を走っちゃダメだって、マザーに言われているだろ?」



 あれ、こんな職員さん居た?


 スッゲー綺麗な金髪なのに、目は真っ黒。


 服はたしかに、男ん人の制服を着てるのに……見た覚えがない。けど、おにーちゃんは俺の前に手を向けてきたんだ。



「忘れろ。まだ君が知るべきではないんだ」


「え?」



 そして、目の前が暗くなって。


 次に起きた時は、俺なんも覚えていなくてケイミー達に囲まれて娯楽室にいたんだ。



「あ! やっと起きた!」


「なにしたのよ、クラット……」


「え、え? 俺……たしか」



 たしか、マザーに……どのマザーに?


 何の用事で?


 それが何もかも全部覚えていなかった。



「そこの廊下で寝転んでたんだよ?」


「どこでも寝るクラットでも、びっくりしたよ? そんなに疲れてたの……?」


「……ごめん。覚えてねーんだ」


「ま。リックさんが連れてきてくれたから、ここでも寝てたのよ。あとでお礼言った方がいいよ?」


「……おう」



 けど、一個だけ覚えてる。


 金の光に、黒い闇。


 それが少し怖くて、ケイミーやターニャには言えなかったのだ。

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