121-3.苦悩のダンスレッスン②(エイマー視点)
*・*・*(エイマー視点)
名目上は私となっているが、実は本当のメインは姫様だ。私も将来のユーシェンシー伯爵夫人になるべく、貴族の養女にもなったので教養はもちろん必要だ。
だが、姫様は。
表向きは勲章を授けられた女性として、レッスンを受けるとしか知らされていない。旦那様の仮の婚約者と言う真実も。
もし、旦那様と心を通わす機会が得られたら。きっと、きちんと婚約なされて、将来のローザリオン侯爵家に嫁がれるだろう。
(最高神が、お許しになられたらだけど……)
つい先日の、お出かけでも他でも。旦那様からも、姫様からも、想いを伝え合うことが出来なかったそうだ。
全部、私の婚約者となった歳下の幼馴染みから聞いたが。何故、まだいけないのだろうか?
旦那様には直接お伺いしていないが、姫様は相当苦しんでいらっしゃるし、自分が不釣り合いだと卑下しまっている状態。
おふたりを離れて見ている私ですら、はがゆく思えるのにまだダメだと言うのか。
「エイマー? 踏みそうだぜ?」
「!? すまない!」
マックスに言われるまで気づかないでいた。
そうだった、私もダンスのレッスン中だった。危うく婚約者の足を踏むところだったな……。
「なんだぁ? 俺……より、チーちゃんか?」
「……君にはすべてバレバレだな?」
「あんたのことならな? なんだ? パンのことにしてはやけに険しい顔してたな?」
「……旦那様とのことだよ」
「……それは、俺が手助けしたくても出来ねーからなぁ?」
「ああ」
現実は残酷だ。旦那様が姫様の想いを知ったまま、抱え込んでいる状態だ。
何故神は、旦那様に更なる試練をお与えになさるのだろうか?
もう、旦那様は充分耐えてこられたのに。
姫様の準備が整ってからか?
なら、あとひと月後の式典まで?
そこまでおふたりに耐えろと?
なんて、残酷なんだ。
「……俺が言うのもなんだが」
「うん?」
次のターンに移る前に、マックスは八重歯を見せながら笑った。
「大丈夫だって。カイルも、チーちゃんも。時期が来れば結ばれる保証は、カイル本人が受け取っているんだ。なら、下手に心配しない方がいい」
「……そうだろうか?」
「その間に、チーちゃんからパンの技術を可能な限り受けといた方がいいぞ? シェトラスもだが、あんたも頑張れよ? レイからも聞いてるぜ? いいとこまで行ってるって」
「……そうだな」
式典が終わったら、姫様がこの屋敷に留まるかどうかはわからない。
だから、それまでに出来るだけ。
彼女から、本来のパンの技術を伝授していただかないと。世界の食文化を本当の意味で取り戻せない。
私も頑張らなくてはいけないな?
そして、レッスンが終わる頃には。
私と姫様は床に座り込むくらいの体力を消耗してしまったのだった。
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