107-1.温かな手






 *・*・*








 何か、大切なことをカイルキア様に言われたような気がする・・・・・・・


 と言うのも、いつのまにか眠ってしまっていて。それはカイルキア様も同じで敷布の上で二人して眠ってしまっていたらしい。


 目を開けたら、麗しいローザリオン公爵様のご尊顔が間近に!? まつげばさばさで美し過ぎるご尊顔がああ!?



(え、なんでこうなっているんだっけ?)



 お弁当を食べた後からの記憶が、なんでかあやふやだ。よーく思い出してみると、カイルキア様が眠いとおっしゃっていたから先に寝ちゃって。私もそれにつられちゃったんだ? 


 うんうん、思い出してきた?


 けど、なんか違和感を感じたので、すぐに起き上がって片手でワンピースの裾のシワを整えた。



「……すっごく、綺麗な寝顔」



 まるで、お人形さんのようだ。


 この世界にビスクドールとかがあるかはわかんないけど、前世で例えるのならマネキン以上に蝋人形の方が合っている。


 私が起きても全然目を覚さないと言うことは、気を許してくださっているのか?


 いつもなら、私が寝こけちゃってカイルキア様の手を握ってたから、今のように逆には……ん、逆?


 右手を見ると、温かいと感じていたのは大きな手に包まれていたから。しかも、カイルキア様の大きくて温かい手に。


 ガッチリと握られていました!



(はえぇえええ!?)



 あったかい、大きい、意外にもすべすべしてるとか意味不明な感想が浮かぶが、引っこ抜こうとしてもガッチリと握られているために不可能だった。


 なんでなんで、と思っても一向に起きる気配のないカイルキアはすやすやと眠ってしまってる。


 これはもう緊張感と羞恥心を我慢して、起こすしかない。


 だもんで、失礼して肩を揺すっても、カイルキア様はびくともしませんでした。なんでや! と思わず前世のお母さん仕込みのツッコミが出そうになった私は悪くない!



「え、え……夕飯前に帰るとは聞いてるけど。い、いつまでこのまま?」



 これはもう、ロティに出てきてもらうべきか?


 けど、ロティに出てきてもらってもどうにか出来るだろうか?


 変換チェンジや結界の魔法以外特に使ったことがないので、カイルキア様の手を振りほどく手段ってあるのだろうか?


 とりあえず、もう一度揺すってみたが、まったくと言っていいくらいびくともせずに、眠られています。



「……現代日本だったら、スマホで時間潰し出来るだろうけど。ここ異世界だし、携帯端末とかないし」



 娯楽云々も、外に出ているので特になし。自分の収納棚にはパンとかの材料や道具関連ばっかだし……あ、カイザークさんからいただいたレシピ本! と思いついたが、先日収納棚を整理した際に、部屋に出しっぱなしにしてたのを思い出した。


 けど、その関係で自分のレシピデータノートの書籍版は思い出せたので、収納棚から取り出して片手だけで読み漁ることにした。


 右手は相変わらず何を頑張っても離れなかったので、仕方なくそのままに。



「優しい夢よ

 優しい風よ


 おやすみ、なさい

 おやすみ、愛し子よ


 大地に、広がる緑の四季

 芳しい、花の香り


 さらさ、さらさ、手を取りましょう


 その目に浮かぶ、愛し子のために


 手を繋げば、届くところに


 すべての愛しさ、見えてくる」



 あと、以前カイルキア様に褒めていただいた、この世界のお母さんから教えてもらった子守歌。


 口ずさんでいたら、ひょっとすると起きるかなあと思ったが、寝返りを打ったのと恐ろしい程の低音美声での『うーん』で、私の腰を砕けさせるんじゃないかって思った。


 が、何回か歌いながらデータノートを読んでいると、起き上がるような声が聞こえてきた。



「……あ?」



 やっと目を覚まされたカイルキア様は、私と手を交互に見たのだった。



「……チャロナ」


「……はい。おはようございます」


「……おはよう。この手は俺が?」


「すみません。私も少し前に起きたんですが、いつのまにか」


「……そうか。すまない」



 と言って、本当に済まなさそうにしゅんとなったカイルキア様がパッと手を離してくださった。


 まだ温もりは少しあるけど、ちょっと寂しいような残念なようなって、おい私! まだ好きとも伝えていないのに、何してんの!


 それに、今日はカイルキア様にデート? に誘われたんだから、暇つぶしに出してたデータノートも収納棚にすぐに仕舞い込んだ。



「い、いえ。この後どうしますか? まだ少し休みます?」


「いや。木苺狩りもお前の弁当も堪能したしな? ならば、遠乗りの延長でもう少し涼しい場所に行くか?」


「涼しい場所?」


「滝だ」


「おお!」



 と言うわけで、敷布を収納棚に入れて、カイルキア様がジークフリート君を口笛で呼んでからまた乗せていただき。


 落ちないようにしっかり座ってから、木苺の群生地から離れるのだった。

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